「まあ、一応ジブリだしな。一度は見ておこうと思った」
「ジブリと言っても宮崎駿では無いよ」
「昔ね。ジブリで配給した洋画のダーク・ブルーというのも見たよ。そういう興味と思いねえ」
「なるほど。ブルーとレッドね」
「何かが違う」
「それで、面白かった?」
「基本的には面白かったが、日本人のテンポには合ってない気がする。少し展開が遅くて眠くなる。基本ラインはつまらないわけではないのだが、少し長く引っ張りすぎている感がある」
「ふーん。でも面白いの?」
「台詞が無くてもここまで話が成立するのかという」
「ポケモン的な?」
「ポケモンがピッカと言えば、まだしもニュアンスは通じる。叫び声だけというのはかなり凄い話だよ」
「他には?」
「いきなり大嵐に翻弄される主人公から始まるが、なぜそんなことになったのかの説明が一切ない。でもいい。本質的にどうでもいいから。大胆な構成だね」
「他には?」
「建造する筏がどんどん大きくなっていくのは面白いね」
「それだけ?」
「途中で、きっと満月の夜にヒロインは月に帰るに違いないと思ったよ」
「それは別の映画だ」
「あと、船が来て大事になるな、とも思った」
「来なかったろ」
「それから、津波は311を連想したよ。生々しい311だ」
「走っても津波からは逃げられないわけだね」
「しかも、何もかも壊して去って行く」
「生々しい311てことだね」
「それでも、全員生き残っちゃうのは生々しくないけどな」
「ぎゃふん」
「夏には、インチキ臭い放射能描写で311を意識したと自称している有害放射脳映画に辟易したばかり。そういう意味では清々しかったよ。別に映画で科学的な嘘を言っても面白ければいいけどさ。有害な嘘は良くない」
「それから?」
「実は、最後に子供が成人して、自分は老人になって死んでしまうのは、【幽霊と未亡人】(1947)という映画に近い持ち味であった。たまたま最近【幽霊と未亡人】を見たばかりなので、そこは印象的だった」
「どんな意味で印象的?」
「【幽霊と未亡人】はね。もう終わりだなと思ったら終わらないで未来へ未来へ飛んで最後は老人になって死んで終わる。なぜ終わらないのかと思って見ていたが結末で凄く納得した。それと同じ。この映画も、もう終わって良いはずなのにどこまで引っ張るのか……という流れになるのだが、最後の最後で納得して終わる。似ている」
「分かった。1947年から69年を経て幽霊は蘇ったわけだね」
「いや、そう言ってしまうとそれも違う気がするが。たぶん、主人公が置いて天寿を全うするところまで話を引っ張って終わる【幽霊と未亡人】型結末の類型は映画に存在すると思う」
「それでかぐや姫は月に帰ったの?」
「海に帰った」
「息子は?」
「海面に映る影が亀だったので、息子も亀としてどこかの海に泳いでいっただけなのだろう」