その婆さんは、会議のオブザーバーだった。
いつも、会議に参加しては話を聞いていたが、自分から発言したことはなかった。
議決権もないし、いつもオブザーバー席に座っているので名札も無いからどこの誰かも分からない。
僕は疑問に思った。あの人は誰だろう。なぜいつも会議にいるのだろう。
思い切って事務方の運営者に質問してみた。
「ああ、それはオブザー婆だよ。仮想現実として投影されているだけで、実体は存在しないんだ」
「なぜそんな人が」
「あれは参加者全員の母親のイメージの公約数なんだ。母親に似た女性がいるとみんな緊張して昼寝しないのでね。君も寝てないだろ?」
(遠野秋彦・作 ©2016 TOHNO, Akihiko)