2017年03月04日
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【作品解説】小説零戦: ミッドウェー上空無敵伝説

Written By: 遠野秋彦連絡先

 身も蓋も無いことを言ってしまうと、本当はミッドウェー海戦でF2Aバッファローが活躍する小説が書きたかった。しかし、そんなものを書いても売れるはずがない。そこで、一回ひねって零戦がF2Aバッファローに圧勝する小説なら読者は買ってくれるのではないかと思った。F2Aバッファローが零戦に大敗するのは単なる史実なので、負けることは全く構わない。これでF2Aバッファローを登場させられる。

 F2Aバッファローを活躍させたいならなぜフィンランドを舞台にしないのかと言われそうだが、そっちは手垢が付きすぎる人気ジャンルであるし、敬遠したかった。

 しかし、零戦搭乗員の視点で話が進行してF2Aバッファローの出番が減っては困る。そこで、零戦搭乗員と海兵隊パイロットの二人の主人公の視点が交互に繰り返されるように構成してみた。この二人は同じ事件の当事者であるにも関わらず、価値観も視点も認識も用語も異なっている。(たとえば、九九艦爆を零戦搭乗員は艦爆と呼んでいるが、海兵隊パイロットはヴァルと呼んでいる)

 これによって、同じ事件に別の意味を持たせ、物語が立体的になるように工夫した。

 しかし、史実通りだと零戦隊とバッファロー隊の交戦は1回きりだ。ミッドウェー島上空で話が終わってしまうと面白くない。

 そこで、かなりの創作を入れて二人は再戦する物語とした。繰り返すが、本作は小説であり、かなりの創作が入っている。なぜ忠実に歴史をなぞらないのかと言えば、全ての資料や説を踏まえて物語を考えるのはほとんど不可能であるし、しかも時間と共に妥当な物語は変化する。それに時間を使うのは不毛であると考えて、物語的な盛り上がりを優先した。

 特に優先したのは、戦闘機搭乗員の意識だ。戦闘機パイロットの仕事は何か。本当にバッファローは役に立たないのか。零戦は本当に強かったのか。機械の性能を越えて人間の認識の部分を特に強調した。

 つまり、無敵零戦が敵をなぎ倒す爽快な「ニホンスゴイ」小説を期待して読むと、零戦の闇が待っていて恐怖することを意識した小説だ。もちろん、ミッドウェー島上空で零戦隊は勝つ。圧勝する。タイトルに嘘は無い。大多数のバッファローは撃墜、撃破される。零戦隊は勝つのだ。しかし……。