2017年06月08日
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三百字小説『凍てる鳩』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 鳩は凍っていた。

 鳩派の鳩は争いごとを潔しとせず、中立を保っていた。しかし、結果としてどちらの陣営の洞窟にも入れもらえず、外で凍えることになった。

 北の海から来た堕天使は凍った鳩を発見して可哀想だと思った。

 そこで、鳩を北の海に連れ帰ったが、溶かすどころかますますカチコチになってしまった。

 堕天使は悪魔にお願いした。

 「鳩を解凍したいんです。何とかして下さい」

 「よろしい」

 平和の象徴鳩は、そのまま地獄の業火で焼き鳥になった。

 「そ、そんな! 鳩が焼け死んでしまった!」

 「え? 食べるには固すぎるから解凍したかったんじゃないの?」

 まだ世界の平和は遠かった。

(遠野秋彦・作 ©2017 TOHNO, Akihiko)

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