小国に枢機卿猊下が来訪することになった。しかし、ずっと泥臭い土着宗教でやってきた小国には、枢機卿が何かを分かっている者はいなかった。
「すうききょう……というぐらいですから、きっと桔梗屋の同類でしょう」
「なに、呉服問屋の桔梗屋か? では桔梗屋が好きなものは何だ。酒か? 金か?」
「女です」
到着した枢機卿は驚いた。
何しろ、どこに行ってもセクシー美女美女美女である。
しかし、枢機卿たるもの、そう簡単に誘惑に乗ってはいけない。
「なぜだ。なぜ我々が用意した美女に、枢機卿は手を付けてくれないのだ」
「きっと男を用意すべきだったのです」
次の日から、枢機卿の前に美少年がずらりと並んだ。
「もう帰る」と枢機卿は呟いた。
(遠野秋彦・作 ©2018 TOHNO, Akihiko)