2018年10月15日
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「ベーシックマスターはパーソナルという語を多用したから国産初のパソコン」は真か?

Written By: 川俣 晶連絡先

「【ベーシックマスターはパーソナルという語を多用したから国産初のパソコン】という主張があって、裏付けを取ろうと思って古い資料をたまに見ていたのだが裏付けが取れなかった。ベーシックマスター関連の宣伝にはパーソナルという言葉を見つけられなかった」

「それで?」

「ある日、ふっと気付いてレベル3関連の広告を見たらパーソナルという言葉を見つけた。いずれかの時点で【日立マイクロコンピュータ】のロゴが【日立パーソナルコンピュータ】に切り替わっていることが分かった」

「確かに【パーソナル】は使われているわけだね」

「問題はその切り替え時期だ。参照可能な月刊I/Oの日立の広告を調べていつロゴが切り替わったのか調べてみた」

マイクロ時代のロゴ §

マイクロ時代のロゴ

パーソナル時代のロゴ §

パーソナル時代のロゴ

月刊I/O調査結果 §

 なお、L2IIはベーシックマスターLevel2IIのこと。L3はレベル3

  • 1980/05 マイクロL2II
  • 1980/06 マイクロL2II
  • 1980/08 パーソナルL2II/L3
  • 1980/09 パーソナルL2II/L3
  • 1980/11 パーソナルL3

結論 §

「これでどんなことが分かったんだい?」

「以下のことが分かった」

  • 日立のロゴが【マイクロ】から【パーソナル】に変わるのはレベル3登場の時点と思われる
  • レベル3が登場してもレベル2IIが主力商品の時代があり、その期間は【パーソナル】ロゴが使用されている。しかし、レベル2IIのみあるいはそれ以前の段階でパーソナルという語を使用している事例を発見できなかった
  • 【ベーシックマスターはパーソナルという語を多用した】という主張はレベル3登場後においてのみおそらく真である
  • 上記の主張を真と仮定するならベーシックマスターが日本初のパソコンという主張は成立しない
  • 初期のベーシックマスターの広告は、ロゴは【日立マイクロコンピュータ】であるが、強調されている単語は【ベーシック】である。

感想 §

「取りあえず、以上で調査を終わる。完全な結論は出ていないが、おそらく【ベーシックマスターはパーソナルという語を多用したから国産初のパソコン】は事実を無視したトンデモである確率が高い。もしかしたら、レベル3とレベル2II以前の違いが分かっていない混乱が招いた誤った認識ではないか」

「単なる完成品マイコンならそれ以前から存在するわけだね」

「パーソナルという言葉を強調したのはやはりPC-8001以降であろう」

「他に何かある?」

「1979年2月号のI/Oをざっと見ると、【パーソナルコンピューター】で一貫しているのはPET-2001だけ。ベーシックマスターは【マイコン】表記。Apple-IIはESDラボラトリの宣伝では【マイコンのベストセラー】表記だが、アメリカ直輸入を謳う日本デバイス株式会社の宣伝では【パーソナル・コンピューターの王様】表記であまり一貫していない」

「国産マシンの【パーソナル表記】は無いと考えて良いのだね?」

「ざっとみた範囲では見つからなかった。しかも海外機でも限定されたケースでしかパーソナルコンピューターとは表記されていない」

「なるほど。圧倒的な【マイコン時代】だね」

「しかし別の気になることを発見してしまった」

「まさか」

「WikiPediaには、こんな表記がある」

その後、パーソナル用途向けのより安価なコンピュータが各社から発売される(これ以前の物は個人所有にはあまりにも高価でパーソナル用途のコンピュータではなかった)。シャープよりMZ-80K(1978年)、日立よりベーシックマスターMB-6880(1978年)、NECよりPC-8001(1979年)が発売された。

「あれ、なんかおかしくないか? 【個人所有にはあまりにも高価な製品しかない】と断言された時代、我々はいったい何を使って遊んでいたんだ?」

「これは大手メーカー史観だろうね。【これは商売になる】と思って大手メーカーが乗り出してくる前に存在したものは全部消されているらしい」

「【シャープ、日立、NECクラス以外の弱小日本企業製品は国産製品にアラズ】という感じかな」