2019年06月20日
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三百字小説『美姫のみちびき』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 みちびきは人工衛星だった。

 準天頂衛星という。

 みんな、みちびきの電波に導かれて移動していた。

 しかし、ある日天の川の洪水が起こってみちびきは自分の居場所がわかなくなった。

 「これでは自分の電波で位置を知っている利用者が困る」

 みちびきは自分のいるべき場所を聞いてまわったが誰も知らない。

 しかし、天女の美姫だけは親切に教えてくれた。

 「どうしてそんなに親切にしてくれるのですか? まさか俺に惚れた?」

 「いえ。私の名前はジュンなので。準天頂衛星のあなたが他人に思えなかっただけ」

 みちびきはシュンとなってもとに軌道に戻っていった。

(遠野秋彦・作 ©2019 TOHNO, Akihiko)

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