2019年12月19日
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三百字小説『ノミの魔術書、ネクロノミコン』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 「人間の書いた魔術書はみんな偽物さ」と彼は言った。「だって人間に魔術が分かるはずがない」

 「じゃあ本物はないのかい?」

 「いやある。ノミが書いたネクロノミコンという本があるという。それのみが本物だ」

 「ノミに字が書けるのかよ」

 「こうしてノミをインクに浸して紙の上で動かすと跡が残るだろ? それで字が書けるのさ」

 「それって結局書いているのは人間」と言う言葉を僕は飲み込んだ。

 僕は話をうやむやにして二人で飲みに行った。

(遠野秋彦・作 ©2019 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦