Written By: 遠野秋彦
「人間の書いた魔術書はみんな偽物さ」と彼は言った。「だって人間に魔術が分かるはずがない」
「じゃあ本物はないのかい?」
「いやある。ノミが書いたネクロノミコンという本があるという。それのみが本物だ」
「ノミに字が書けるのかよ」
「こうしてノミをインクに浸して紙の上で動かすと跡が残るだろ? それで字が書けるのさ」
「それって結局書いているのは人間」と言う言葉を僕は飲み込んだ。
僕は話をうやむやにして二人で飲みに行った。
(遠野秋彦・作 ©2019 TOHNO, Akihiko)