学校探偵・内山田教諭とスクールファイブ
Amazon.co.jp


小説・火星の地底世界バルシダー
Amazon.co.jp


火星の地底世界の古代王国【合本】
Amazon.co.jp


宇宙重巡洋艦高尾始末記: 辺境艦隊シリーズ合本
Amazon.co.jp


全艦出撃! 大宇宙の守護者: オルランド・スペース・シリーズ合本
Amazon.co.jp


青春小説 北区赤羽私立赤バニ学園: 制服はバニーガール女装
Amazon.co.jp


坂本龍馬対ゾンビ: Japanese Dawn of the Dead
Amazon.co.jp


彼の味方は動物達と月の姫
Amazon.co.jp


小説・宇宙機動遊撃艦隊: ラト姫物語・セラ姫物語合本
Amazon.co.jp


本土決戦1950: 無敵! 日本陸軍ジェット戦闘隊
Amazon.co.jp


魔女と勇者の秘密: 遠野秋彦ファンタジー小説合本
Amazon.co.jp


無敵合体ロボ軍団 ~遠野秋彦ロボット小説合本~
Amazon.co.jp

2003年07月24日
遠野秋彦の庵小説の洞total 2088 count

理想の伴侶

Written By: 遠野秋彦連絡先

 熊野岳男は極めて不細工な男であった。そのことに本人が痛切に気付いたのは、中学生の時だったのだ。初恋の少女に告白したのだが、即座に体よく断られたのだ。しかし、その時にはまだ友達づきあいしてくれる幼なじみの女の子もいたので、それが致命的だとは気付かなかった。だから、高校生になって惚れた女の子ができたとき、チャレンジする価値はあると思ったのだ。だが、今度は悲鳴を上げて逃げられた。岳男は女を襲いかねない危ない男と裏で噂されるようになって、女達はみな岳男を避けるようになった。だが、一浪して予備校に通うようになると、そんな悪い噂も届かず、あからさまに女達が彼を避けることもなくなった。そこで、彼は高校の時の体験は何かの間違いかと思い、予備校のクラスメートの女の子に告白した。次の日から、その娘は予備校に来なくなった。ここに至って、岳男は自分が女に縁のない人間であり、どんな逃げ道もないということを自覚して泣いた。

 しかし、岳男も若い男である。女への未練は断ち切りがたい。彼は、自分の理想の女性を機械仕掛けで作り出す決意を固めた。機械いじりは好きだったし、メイドロボットが出てくるゲームを楽しんだこともあったので、女性型ロボットを自分の手で作るということに、興味がかき立てられないわけではなかった。

 岳男は志望を変更し、ロボット工学で有名な工科大学を目指した。レベルは高く、岳男の学力では危うかったが、本来同年代の少年が異性に傾ける情熱の全てを受験勉強に叩き付けることで、これを突破した。

 入学後も、岳男は勉強熱心であり、1年のうちから研究室に入り浸って、最先端の技術と情報を、どんどん取り入れていった。研究室に配属される前から、岳男の名前は学科内に知れ渡った。だが、岳男にとって有名になることは、重要なことではなかった。むしろ、有名であるために、必要な資料などを借りに行くときに自己紹介の手間が省けることが嬉しかった。

 彼は当然のように大学院に進学したが、その頃には、学会で少しは名前の知られた存在になっていた。岳男の書いた人間の様々な行動を模倣するメカニズムについての論文は、稚拙な面もあったが、ロボットの新しい可能性を開拓するものとして、評価を受けていた。

 彼はドクターコースを進み博士号を取ると、海外の研究施設に勤務するようになった。それは、岳男にとって満足行く環境ではなかった。人型のロボット開発に熱心なのは、日本ばかりで、欧米では低調だったのだ。それでも海外に行ったのは、箔を付けて日本に戻るためだった。これも、権威の序列というようなしがらみを乗り越えて、理想に邁進するためであった。彼の目標は理想の女性型ロボットなのだ。

 しかし、岳男が望むほど、研究が順調に伸展したわけではなかった。次々に出現する難題を解決すると、更に多くの難題が出現するのだった。しかも、解決できない問題もしばしば出現し、その場合は別の方法を模索する必要があった。

 やがて、岳男は、解決できる問題と解決できない問題の間には、何かの法則性があるように思えてきた。そして、実現できるロボットと実現できないロボットには、どういう違いがあるのか、という問題に興味を抱くようになった。

 たとえば、あるエネルギーを摂取して発揮できる力には限りがあるし、センサーから取り込める情報にも限りがある。その限界が、ロボットの限界を決定づけてしまうのだ。十万馬力のロボットを夢想するのは容易だが、それだけの力を発揮させるのに必要なエネルギーを供給する手段を人間サイズのボディに納めることは、現実的には不可能といえた。

 実績作りには、実現できないロボットを目指すよりも、容易に実現できるロボットを目指した方が良い。岳男は、そう思い至ると、既に完成された技術をかき集めて、メイドロボットを開発した。メイドといっても、人間の形はしていなかった。二足歩行をするテーブルのような形態で、人間の音声で命令でき、物を運んだり、自動的に床を掃除したり、専用電子レンジと連動して冷凍食品を調理したり、といった機能を持っていた。メイドの仕事を全て肩代わりすると言うよりも、主婦の労働を軽減する機械であった。

 しかし、岳男の目論見は当たった。人型にこだわる日本企業に先んじて、家庭内で役立つロボットを実用化したのだ。岳男の名前は世界に轟いた。

 その結果、日本の有名大学から、教授として来て頂きたいという申し出が岳男の元に届いた。その他、研究資金を提供しましょうという企業も現れた。これで、岳男は思い通りの研究ができる環境を手に入れることができた。

 教授になると授業もしなければならないし、学生の面倒も見なければならない。学生の中には女性もいる。最初、岳男は女子学生は自分に寄りつかないだろうと思っていた。自分から近づいていく気もなかった。ところが、予想外のことに、岳男は女子学生に人気が出た。

 岳男は大いに戸惑った。まさか、舶来信仰の強い若い女性達が、海外から帰ったという岳男の経歴に惹かれているのだろうかと思った。だが、岳男の不細工な風貌が、カワイイと評価されているらしいことが分かると、ますます岳男は分からなくなった。更に、女性にも興味を示さず研究に没頭する岳男が実直だという評判も立った。これもまた、岳男から見れば大いなる勘違いであった。

 更に、女子学生との付き合いが増えると、もう一つの評判が立った。岳男は女心を良く分かってくれる、というものだ。岳男にはそんな自覚はさらさらなかったが、どうやら、理想の女性型ロボットを作るために、女性の行動や心理を調べた結果、女性の考えることが解るようになったということらしい。確かに、女性をゼロから作ろうというのだから、女性の内面を分かろうとするのは当然なのだが、それが女性から慕われる理由になるとは、岳男の想像外のことだった。

 そのような岳男の周囲の変化は、女子学生が岳男の家に押し掛け女房のごとくやってきた事件で、ピークに達した。いくら何でも、教授と教え子ではまずかろうと、岳男は必死に説得して帰ってもらった。

 だが、それを契機に、岳男も自覚せざるを得なくなった。自分は女の子に人気があるということを。

 岳男は、おずおずと、女子学生達に自分から話しかけることを始めた。といっても、もちろん、教授と学生の関係を踏み越えるようなことはしない。

 やがて、岳男は卒業生の一人と結婚することになり、家庭を持つに至った。

 いつの間にか、岳男の人生の目標であった理想の女性ロボットは、どうでも良いものになっていた。もともと機械が好きだから、ロボット工学をやることは嫌ではない。だが、自然と好みは変わった。もはや人間に似せることを追求することは無くなった。

 人間型ではないロボットをいろいろ考案しているうちに、そこには芳醇な可能性が眠っていることに気付いた。逆に、人間型であるかぎり、いろいろな意味で人間の限界を超えられないことも分かった。

 学会の基調講演に招かれた岳男は、人間型ロボットは人間を目指す限り人間と同じにしかなれず、人間は超えられないという意見を述べた。そして、人間にできることなら、人間が手間を惜しまずやればよい、と付け加えた。ロボットは人間にできないことをするためにこそ、作るべきだと。

 すると、客席から若い研究者が立ち上がって、ヒステリックに叫んだ。

 「そんな綺麗事は、若い女の子に人気があるから言えるんだ。もてない男の気持ちが、おまえなんかに分かるものか。オレは理想の女性型のロボットを作ってみせるぞ!」

おわり

(遠野秋彦・作 ©2002,2003 TOHNO, Akihiko)

★★ 遠野秋彦の長編小説はここで買えます。

https://www.piedey.co.jp/pub/

Facebook

遠野秋彦

キーワード【 遠野秋彦の庵小説の洞
【小説の洞】の次のコンテンツ
2003年
08月
08日
辺境国の「こんぴうた」
3days 0 count
total 2147 count
【小説の洞】の前のコンテンツ
2003年
07月
13日
勤勉国と道楽国
3days 0 count
total 2891 count


学校探偵・内山田教諭とスクールファイブ
Amazon.co.jp


小説・火星の地底世界バルシダー
Amazon.co.jp


火星の地底世界の古代王国【合本】
Amazon.co.jp


宇宙重巡洋艦高尾始末記: 辺境艦隊シリーズ合本
Amazon.co.jp


全艦出撃! 大宇宙の守護者: オルランド・スペース・シリーズ合本
Amazon.co.jp


青春小説 北区赤羽私立赤バニ学園: 制服はバニーガール女装
Amazon.co.jp


坂本龍馬対ゾンビ: Japanese Dawn of the Dead
Amazon.co.jp


彼の味方は動物達と月の姫
Amazon.co.jp


小説・宇宙機動遊撃艦隊: ラト姫物語・セラ姫物語合本
Amazon.co.jp


本土決戦1950: 無敵! 日本陸軍ジェット戦闘隊
Amazon.co.jp


魔女と勇者の秘密: 遠野秋彦ファンタジー小説合本
Amazon.co.jp


無敵合体ロボ軍団 ~遠野秋彦ロボット小説合本~
Amazon.co.jp

このコンテンツを書いた遠野秋彦へメッセージを送る

[メッセージ送信フォームを利用する]

メッセージ送信フォームを利用することで、遠野秋彦に対してメッセージを送ることができます。

この機能は、100%確実に遠野秋彦へメッセージを伝達するものではなく、また、確実に遠野秋彦よりの返事を得られるものではないことにご注意ください。

このコンテンツへトラックバックするためのURL

https://mag.autumn.org/tb.aspx/20030724130831
サイトの表紙【小説の洞】の表紙【小説の洞】のコンテンツ全リスト 【小説の洞】の入手全リスト 【小説の洞】のRSS1.0形式の情報このサイトの全キーワードリスト 印刷用ページ

管理者: 遠野秋彦連絡先

Powered by MagSite2 Version 0.36 (Alpha-Test) Copyright (c) 2004-2021 Pie Dey.Co.,Ltd.