2003年07月27日
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Internetのなぜを読み解くスケール フリー ネットワーク

Written By: 川俣 晶連絡先

 今月の日経サイエンスに、「世界の"なぜ"を読み解くスケール フリー ネットワークという記事が載っていました。本当は過去形本の虫のコーナーに書くべき内容かも知れませんが、まあここに書きましょう。

 この記事には、様々なモノをつなぐ2種類のネットワークが出てきます。1つは、ランダムにノードが接続されたランダム ネットワーク。もう1つは、ここでテーマになっているスケール フリー ネットワークです。

 そして、WWWのリンクを調べたとき、ランダム ネットワークになることを予想していたが、そうではなかったと書かれています。つまり、リンク数の多い一握りのページによって、WWWの基本構造が出来上がっているというのです。80%を超えるページはリンク数が4未満なのに、0.01%にも満たないごく一部のページは1000以上とリンクが張ってあったと言います。そして、k個のページとつながっているウェブページの数は、べき乗則の分布になっているといいます。このようなネットワークを、「スケール フリー ネットワーク」と呼ぶのだそうです。

 WWWのリンクだけでなく、他の多くのもの、たとえば人間関係、産業、生物などにこのようなネットワーク構造が見られるそうです。

 さて、ここで重要なのは、「へぇ、そういう構造なのか。面白いね」と言って終わることではなく、このような構造が持つ特徴を把握することです。

 この記事によると、スケール フリー ネットワークは、偶発的な障害に対しては非常に強いが、意図的な攻撃には弱い、という特徴を持つそうです。このことは、常日頃経験しているInternetという存在の強さと弱さの印象とうまく符合します。いつもどこかでネットワークのトラブルが起きていても、自分が必要とする通信は可能であることが多いのです。しかし、意識的に弱点を突くような意図的な攻撃を食らうと、たとえばウィルスのたぐいの大流行であるとか、spamメールに大量送付といった問題は、容易にネットワーク全体の問題に発展してしまいます。

 もう1つ、衝撃的なのはウィルス撲滅は不可能という指摘です。こういうものの流行には臨界点があり、それを下回れば自然に収束すると言います。反対に、それを上回ると、指数関数的に増殖して、システム全体に広がると言います。しかし、スケール フリー ネットワークの臨界点はゼロであると言っています。つまり、感染力の弱いウィルスでも流行し、生き延び続けるのだというのです。

 もちろん、この記事の内容は絶対に正しい、と断言できることではないでしょう。違う意見の研究者もきっといると思うし、研究が進むと著者自身の意見が変わっていく可能性もありそうです。しかし、我々が実際に使っているInternetのことを考えるときに、スケール フリー ネットワークという概念とその特徴を道具として使うことはできるでしょう。それによって、より的確に問題の解決方法、あるいは妥協方法を考えることができるとすれば、それは有益なことかもしれませんね。

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