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2003年11月28日
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断じて忘れたとは言わせない

Written By: 遠野秋彦連絡先

 全ての人類の願望を実現すべく生まれた夢の21世紀博士、夢野博史は、21世紀を迎えるカウントダウンの興奮で、ついうっかり自分が実現すべき人類の夢とは何かを忘れてしまった。

 それから何年もの間、夢野博史は必死に記憶を取り戻そうとした。しかし、どうしても思い出すことができなかった。ヒントを求めて、多くの人達に、21世紀に実現すべき夢とは何かを聞いて回ったりもした。人によって、空を飛ぶ自動車であったり、空中に浮かぶ家であったり、銀ピカのファッションであったりしたが、それが夢野博史が実現すべき夢ではないことは明らかだった。それらは、未来への夢などではなく、レトロフューチャーと呼ばれる過去を懐かしむファッションに過ぎないものであった。もちろん、それらを実現することは、夢野博史の才能をもってすれば、たやすいことであった。だが、彼は自らの使命を神聖視していた。それ以外のことに才能を使うことは、頑なに拒絶したのである。

 一方で、もっと高速なコンピュータや、人類を飢餓から救う遺伝子組み換え穀物などが21世紀の夢だと訴える人々もいた。だが、それらは既にビジネスベースで研究開発費用がつぎ込まれていて、夢野博史の卓越した才能をつぎ込むに値する全く新規な技術とは言えなかった。

 何年も時間が経過すると、それにつれて、夢野博史の焦りも増加していった。焦りが増えると、単純なミスも増える。ついうっかり忘れてしまい、同じ情報を繰り返し調べていることに気付いたとき、夢野博史は少なくともここに1つの21世紀に実現すべき夢があることに気付いた。

 それは、物忘れを防止する技術である。

 大切なこと、重要なことでも、人はあっさりと忘れ去ってしまう。だが、それは正しいことではない。人が祝福された素晴らしい人生を生きるためには、うっかり忘れることから解放されねばならない。

 そこで、夢野博史は研究室に閉じこもって、新しい技術の開発に没頭した。いつしか、美少年だった夢野博史は白髪のお爺さんになっていた。

 そして、21世紀も終わりに近づいたある日、それは完成した。

 脳の中に、けして忘れるということを知らない人工補助脳を取り付けるのだ。副作用はなく、使い方も簡単。思い出したい何かのヒントを思い浮かべれば、それに関連する記憶がずらっと頭の中に思い浮かぶのである。

 「どんな記憶も全て保存。忘れました、と言う言葉は二度と言わせません!」

 そう夢野博史は断言した。

 その歯切れの良さと、内容の革新性に、マスコミは沸いた。世間も話題騒然となった。

 だが、光があれば闇もある。そんな都合の良い技術ができるものかと、夢野博史を詐欺師扱いする者達も出てきた。

 それに対して、夢野博史は自分自身を証明の手段とした。彼は既に数十年もの間、実験用の補助脳を自分で使っていたのだ。彼は、それを使い始めてから後のことを、どんな些細なことでも覚えていた。たとえば、数十年も前の新聞の特定の日付の一面のトップ記事どころか、宣伝広告の内容まで正確に話すことができた。さすがに、読まなかった日付の新聞の内容を語ることはできなかったが、その代わりに、新聞を読むかわりに彼が何をしていたかを正確に証言することができた。

 この夢の技術が本物だと分かると、メーカーは次々と夢野博史と製造販売のライセンス契約を結んだ。そして、補助脳は驚くほど早いペースで商品化が進んだ。

 この世界から、「忘れました」という言葉は急速に消えていった。このままでは死語になってしまうから、この言葉を保存すべきだという意見まで飛び出した。

 もちろん、誰もがこれを歓迎したわけではない。「記憶にございません」という言葉でピンチを切り抜けるタイプの職業の人々は、けしてこのような技術を歓迎したりはしなかった。しかし、それは重要な問題ではなかった。なぜなら、補助脳を付ける、付けないは個人の自由であり、付けると困る人は付けないまま過ごしても問題はなかったからだ。

 さて、この技術が、使いたい人達の間に一通り普及した頃、1つのスキャンダルが発覚した。夢野博史は、かつて、人妻と不倫し、しかも子供まで作っていたというのである。その子供は、不倫相手の夫の子として育てられていたという。

 最初のうちは、夢野博史本人も笑い飛ばし、世間の大多数も3流ゴシップ誌のでっち上げだと認識していた。

 しかし、様々な証拠が集まるにつれて、徐々に事実かも知れないという空気が世間に生まれてきた。

 そして、ある日付の特定の時刻に夢野博史がどこにいたか分かれば、この疑惑の真偽が確定するというところまで推理が絞られていった。その日付は、既に夢野博史自身が補助脳を使い始めた後にあたる。「忘れました」という言葉を自ら死語にした夢野博史なのだから、忘れたとは言えない状況だった。

 更に、偽証も不可能だった。全ての人類の願望を実現すべく生まれた至高の21世紀教授が、完全な嘘発見システムを開発していたからだ。それを使われれば、偽証はすぐばれてしまう。

 その上、何も語らずに逃げ切ることも不可能になった。全ての子供は、正しい親を書類に記載されるべき、という趣旨の新しい法律に違反しているという告発がなされたからである。

 夢野博史は、嘘発見システム完備の裁判所に出頭を命じられた。

 多くの人々が、現実、あるいは仮想空間に集まり、夢野博史がどんな証言をするか興味を持って待ちかまえた。

 全ての人類の願望を実現すべく生まれた究極の21世紀人工知能によって駆動される完全なる法律の解釈者、極限裁判長が開廷を宣言した。

 極限裁判長は、夢野博史に告げた。「ここでは偽証は罪となります。偽証は、嘘発見システムによって完全に検知されます。質問には嘘偽り無く、正しく答えるように」

 「はい」と夢野博史は神妙に答えた。

 「では質問します。某年某月某日のこの時間、あなたはどこにいましたか?」

 そう裁判長に質問されたが、夢野博史はすぐに返事をしなかった。

 「忘れてしまいましたか?」と裁判長は質問した。

 「いえ、忘れるなどと言うことはあり得ません。私の開発した補助脳があれば、忘れることはあり得ません。あれは完璧なのです」

 「では、どうして答えられないのですか?」

 「そ、それは……」と夢野博史は口ごもった。

 「それはいったい、なぜでしょう?」

 「つまり、その……」

 「やはり忘れてしまったのすか?」

 「そんなことはありません!」

 「ではいったい?」

 それからゆっくりと夢野博史は言った。「断じて忘れたわけではありません。ただ、その日の記憶を削除してしまっただけなのです。その頃、ちょっと容量が足りなくなっていて……」

おわり

(遠野秋彦・作 ©2003 TOHNO, Akihiko)

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