2004年02月23日
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萌える英単語もえたん 三才ブックス 渡辺益好 鈴木政浩

Written By: 川俣 晶連絡先

 読みながら思ったことは、これはどえらい本だということです。

 表面的には、この特徴的な「萌え絵」が大きなポイントとして認識されているようですが、それは読者を食いつかせる機能を与えられているだけで、本当のどえらさとは違うものです。

 この本のどえらさ、とは内容そのものが面白いと言うことに他なりません。

 英語を勉強するための日本語と英語の文章そのものが面白いのです。

 例文そのものが良く考えられていて、読者の興味をかき立てること。そして、例文の日本語が、英訳してから日本語訳したような内容で、よく知っている言葉を異化作用したような効能を持っていて、注意を引きつけられること。それらが、飛び抜けて優れた特徴だと思います。

 特に、この異化作用はポイントだと思います。たとえばアニメの台詞を英訳するだけの企画が、過去に無かったわけではないと思います。しかし、それではダメなのです。この本のように、英訳を日本語訳したような例文を通して、そこにどんな意図が込められているのかと、読者が能動的に入り込んでいく構造になっているからこそ、この本はどえらいと思います。

 その点からすると、おそらく真の意味での類書は容易には出版できないような気がします。

ネタのマニアックさ §

 ネタのマニアックさとバリエーションの広さも特筆すべきことですね。

 古いものから、新しいものまで、いろいろ揃います。ただ、この本の趣旨が合致する年代の読者が、宇宙戦艦ヤマトや、91ページのWizardry風の画面などの古いネタを分かるかどうかは疑問ですが。(Wizardry風の設定を使った押井守監督のAvalonは分かってもらえなかったような気がします)

信じる心が僕らの絆さ、熱血最強キングゴウザウラー! §

 特に感心したのが107ページの熱血最強キングゴウザウラーです。書籍では熱血最強キ●グゴウザウラーと表記されて伏せ字になっています。例文の趣旨として、これは実に適合した名前ではあります。しかし、この名前は通常ならサラッと出てこないはずの名前です。というのは、エルドランシリーズ3作目のこのアニメのタイトルは、「熱血最強ゴウザウラー」であって、「キング」は入らないのです。しかし、作中に出てくる最強のロボットの名前は「キングゴウザウラー」と呼びます。これを組み合わせて、「熱血最強キングゴウザウラー」という呼び方は通常されないと思います。

 ところが、私が記憶する限り1つだけ、「キング」入りで「熱血最強キングゴウザウラー」と叫ぶケースがあります。それが、挿入歌の「レディ・ゴー!熱血最強キングゴウザウラー」です。(ゴウザウラーの3枚目のサントラCDに収録)

 そして、この「レディ・ゴー!熱血最強キングゴウザウラー」というのが、隠れた名曲とも言うべき素晴らしい歌なのです。ロボットを動かす主人公達クラスメート全員が一緒に歌うというスタイルも良いのですが、それ以上に、希望に溢れたアップテンポなところが、何度聞いても気持ちよいものです。そして、単調に陥らないリズム感が、あっさりと単純に流して終わない効果を持ちます。とても多くのアニソンがありますが、この歌はトップクラスの大傑作だと思います。ほとんど知られていない歌だとは思いますが、隠れた名曲と言って問題ないと私は思います。

 そういう隠れた名曲を連想させる言葉を持ち出してくる内容から考えると、この本の著者は、単なるオタク世界の流行りモノを表面的に追いかけているわけではなく、様々なものを長い時間を掛けてコツコツと収集し、それを自分のセンスと判断で本書の中に展開しているのだろうと思います。

 それこそが、この本の飛び抜けた面白さのバックグラウンドなのだろうと思います。まあ、思うだけで根拠はありませんが (汗)

さりげない配慮 §

 カバーの裏側に、恥ずかしくない別の表紙が用意されいますね。なかなか、分かっている配慮だと思います。

この本から何を学ぶべきか? §

 学習のための本の作り方には、まだまだ工夫の余地があるな、と思いました。

 それは萌え絵を出せば良いという話ではありません。たとえば、例題などの構成方法に、もっと工夫をこらして、読者の注意をかき立てる努力をする余地があるということを感じました。

 そういう意味で画期的な本だと思いますが、しかし結局は萌え絵で流行った本として記憶されてしまうのでしょうね。

2004年2月24日0時4分頃追記 §

 最後に魔法を失ってしまう切ないストーリーの終わり方も素晴らしい!

 オタク世界の居心地の良いぬるさに、最後まで浸ることを許さないのが良いですね。

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