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2004年03月04日
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ライナスの毛布・リナックスの毛布

Written By: 遠野秋彦連絡先

この作品はフィクションであり、実在する人物、著作物、登場人物、企業、製品、ソフトウェアなどと関係はないことをお断りしておきます。つまり、たまたま実在する同名のものを忠実に反映するように書かれているわけではない、ということです。

 僕は自惚れ屋ではない。

 しかし、そう誤解されることが多いことは経験的な事実だ。

 たとえば、自分だけ正しいことを知っているつもりになっているとか、他人を見下しているなどと言われることがある。

 だが、それは誤解というものだ。

 実際、僕はこの世の正しいことを全て知っているわけではないし、どこの誰でも僕の知らない何かを知っている可能性がある。その点で、僕はとても謙虚な態度で生きていると思っている。

 では、どうして僕は誤解されるのか。

 それは、主に誤解する側の問題だと僕は思っている。

 たとえば、パソコンを買ってもらえることになってどれを買うか機種を選んでいるクラスメートにアドバイスしたことがある。そのクラスメートは、テレビで流れている、インテル入ってるというコピーが頭に染みついていて、インテルブランドのCPUを使ったパソコンから選ぼうとしていた。しかし、実際にはインテルのCPUは高くて性能が低い。むしろ、AMDのCPUの方がずっと安くて高性能なのだ。確かにインテルのCPUの方が、クロックの数字は大きい。素人はそれを見てCPUの性能を判断するが、そんなのは本当の処理速度を反映していないのだ。どこからどう見ても、AMDのCPUを使ったパソコンを買う方が賢い選択に決まっている。インテルなど、要するに騙しのテクニックで無知なユーザーにパソコンを売り込んでいるだけなのだ。だから、僕はクラスメートがお金の無駄遣いをしないように、AMDのCPUを使ったパソコンを買うように時間を掛けて熱心に勧めた。これは、クラスメートを思えばこその善意だ。頼まれもしないのに、わざわざそういうアドバイスを行うのは、崇高な行為ですらあるだろう。

 だが、クラスメートはその崇高さを理解することはできなかった。

 その代わりに、彼はこう言って僕を拒絶した。

 そんなにAMDが好きなら、君が買ってもらえばいいだろう。僕が買ってもらうパソコンにあれこれ口出しして欲しくないな。僕は、インテル入ってるのコマーシャルが気に入って、パソコンを買ってもらうことに決めたんだ。インテル入ってるじゃなかったら、ぜんぜん意味がないよ。あ~あ、せっかくパソコンを買ってもらえることになって良い気分だったのに、君のおかげでぶち壊しだよ。

 それを聞いて僕はとても悲しかった。

 僕は、彼の良い気持ちを壊そうとしたわけじゃない。あくまで、彼に無駄な出費をさせまいとしただけなのだ。しかも、そういう意図は、何回も説明しているのだ。それにも関わらず、彼は僕の意図を全く理解できなかった。彼が怒ったのが僕のせいであるわけがない。どう考えても、彼の理解能力不足が原因だ。

 同じような出来事は、何回も起きた。それによって、僕は、自分だけ正しいことを知っているつもりになっているとか、他人を見下しているなどと言われていることを知ることになったわけだ。

 しかし、僕はふて腐れたりはしなかった。

 そんなものは、下等な人間のすることだ。少しでも考える頭と倫理観というものがあるなら、周囲が馬鹿だからと言って、自分も馬鹿に堕落して良いとは考えないものだ。周囲が馬鹿であればあるほど、自分は彼らとは一線を画する理性を持たねばならない。それが正しいあるべき態度というものだ。

 それはさておき、僕はこれからある出来事について語らねばならない。

 これは僕が今落ち込んでいる哀れな誤った状況に至る物語だ。

 ライナスの毛布という言葉がある。

 あるマンガに、毛布を手放すことができない少年が登場する。それを元にして、生まれた言葉だ。

 かつての僕は、そんな言葉あることも知らなかったし、少年が毛布を持っている意味について、別の解釈を持っていた。

 子供の頃の僕は、けして毛布を手放さない少年を見て、まず不思議に思った。あんな、薄汚れた毛布をどこにでも持ち歩くのは明らかにおかしい。だが、やがて気付いたのだ。あの毛布は、ただの毛布ではない。きっと、何か凄い秘密があるのだ。最初は必殺武器かと思ったが、それはいくら何でもありそうもなかった。しかし、毛布の模様の中に、何か秘密の暗号が隠されていたりするぐらいのことはありそうだと思った。もしかしたら、暗号の解読表かも知れない。僕は、一時期、あの毛布に隠された驚くべき真実について空想して過ごした。

 高校生にもなると、そのことはすっかり忘れていた。パソコンやインターネットの方に夢中になっていて、マンガどころではなかったのだ。

 だが、あるとき、パソコン雑誌を見ていてあの少年の名前を思い出した。

 Linus Torvaldsという人物がLinuxと呼ばれる画期的なOSを開発したという記事だったのだが、Linusという言葉をライナスと読み、反射的に毛布を持った少年を思い起こした。実際には、この人物の名前はリーナスと読むべきらしいのだが、最初に読んだ記事では名前がカタカナ書きではなかったので、あの少年と同じ発音が印象づけられてしまったのだ。そして、僕の頭の中にあるLinus Torvaldsのイメージは、毛布を手に持った天才少年となった。

 その結果、僕の中で、毛布に対する新しい解釈が生まれた。

 毛布とは実は凄い情報処理装置の偽装した姿なのだ。そして、Linus Torvaldsは、その装置の能力を倍増させるために、新しい画期的なOSを開発する必要があったのだ。

 しかし、なぜ毛布に偽装する必要があるのか。その理由は簡単だ。世界のコンピュータソフトを支配しようと企む悪のマイクロソフトの攻撃を避けるためだ。

 いかにも幼児っぽく、そして、馬鹿っぽく毛布をどこにでも持ち歩く姿は、陰謀から世界を救うための偽装だ、と考えると僕は興奮した。

 これは正義の聖戦なのだ。

 残念ながら、聖戦の意義を理解する者は、高校時代には身近に見付からなかった。

 だが、大学に進学すると、次々と志を同じくする同志が見付かった。

 大学生活もすっかり馴染んだある年、学園祭の実行委員がとんでもない企画を立てた。

 こともあろうに、悪の帝国マイクロソフトから人を招き、講演させるというのだ。これは、僕ら、Linuxを信奉する正義の同士も知らない間に決定されたことで、僕らが気付いた頃にはもう中止できない段階になっていた。

 もちろん、実行委員には、それがどのような反社会的な極悪な行為であるか、まったく自覚はなかった。この大学には多くの同志がいるが、学生の大半は無自覚にマイクロソフトから搾取される哀れな子羊に過ぎないのだ。

 しかし、マイクロソフトが唱える詭弁や綺麗事や嘘八百を、このキャンパスで自由に喋らせることは阻止しなければならない。そのような基本的な方針を、僕らは確認し合った。僕らは朝早くから入場待ちの行列に並んで最前列に陣取り、間違いは間違いだとはっきり指摘することにした。

 そして、時間が来た。

 大きめの階段教室の9割以上の席が埋まっていた。

 僕らの同志は、数えてみると、全体の2割以上にもなった。そして、周到な席取りの成果もあって、遅刻した者もすべて前方の席に陣取ることに成功した。

 そこに、奥の入り口からマイクロソフトの人間が入ってきた。

 うかつなことに僕は動揺した。なぜなら、入ってきたのは女性だったからだ。あまり美人とは言えない眼鏡を掛けた女だった。そして、小柄な身体は、僕ら同志の前ではいかにも頼りなげでひ弱に見えた。

 彼女は、マイクの前に立つと、喋り始めた。しっかりした良く通る声で、内容は明快で分かりやすかった。好感を持たれる講演者らしい手慣れた態度だった。

 だが、彼女の自己紹介が終わるか終わらないかのうちに、同志の野次が飛んだ。

 引っ込め、マイクロソフトの犬め。

 僕は、同志ではあるが、そういう野次は良くないと思った。確かに、僕らは正義のためにここに来たわけだし、確かに彼女は悪の帝国の手先となった犬かもしれない。しかし、相手がまだ何も本題に入っていないのに、最初から犬呼ばわりは、他の聴衆から好感を持たれないだろうと思ったのだ。

 だが、そんな思いはすぐに消し飛んだ。

 彼女が本題に入って、マイクロソフト製品がいかに世の中の役に立とうとしているか。特に、セキュリティ面での取り組みについて話し始めると、あまりの嘘の多さと詭弁に、僕も黙ってはいられなかった。

 我が社は、全社的にセキュリティの向上に取り組んでおります。と彼女が言えば、即座に数十人がその嘘を指摘する声を上げた。

 穴だらけじゃないか!

 どこが向上しているんだ!

 嘘つきは引っ込め!

 すると、彼女は小柄な身体のどこにそんな力があるのか、僕らをキッと睨むと言った。この時間は私がお話をする時間になっています。ご意見は質疑応答の時間に伺います。

 僕らは、あまりに意外な彼女の堂々とした

態度に、一瞬押し黙ってしまった。

 だが、もちろん、その程度の睨みで僕らは黙らない。

 すると彼女は更に言った。大学生にもなって、他人の話を聞く態度もできていない人ばかりのようですね。

 その言葉の内容に、僕らはカッとなった。こともあろうに、僕らをまるで子供扱いするような言い方だ。そして、この言葉はこの場の空気にピッタリ馴染んでいた。こんなにも上手い言葉をよく咄嗟に言えたものだと思う。もちろん、それは褒め言葉ではない。これは、僕らを子供扱いするという挑発なのだ。彼女は僕らを敵としてすら扱わなかった。子供として扱ったのだ。

 僕らは挑発に乗った。誰かが物を投げた。それが何であったかは分からない。僕らはそれに続いた。

 死ね。

 豚。

 などと言いながら僕らはノートや飲みかけのペットボトルや食べかけの菓子の袋や、その他ありとあらゆる手近なものを投げた。

 彼女は、興奮して顔を赤らめただが、その小さい身体にノートがぶつかってもけして引こうとはしなかった。

 だが、投げられたものの中に、重量のあるものが混ざっていたようだ。たぶん、分厚いマンガ雑誌ではないかと思う。それが彼女の額に激突したとき、そこから赤いものが流れ出した。

 僕はその瞬間に、サッと冷たいものを背中に感じた。僕らはやりすぎたのではないか。もちろん、僕自身が出血させるほど重いものを投げた覚えはない。僕が投げたのは、中身が空のペットボトルと、朝食に食べたコンビニ弁当の空き容器の入った袋だけだ。どちらも、当たったからと言って、出血するような重さはあり得ない。

 さすがにここまで来ると、誰の目にも継続は不可能だった。実行委員が飛んできて、彼女を連れて奥のドアから去っていった。

 この出来事は、大学側で問題となった。

 もちろん、僕らは一方的に悪者にされた。

 しかし、懲罰や真相究明はあとでじっくり行うということで、すっかり夜も深まった頃に僕らは解放された。

 僕は一人でとぼとぼとアパートに向かって歩いた。あたりは、中小企業の工場街だった。近道の裏通りに入ったところで、一人の男が僕の前に立ちはだかった。僕の知らない人物だった。

 だが、相手は僕を知っているようだった。

 ここでおまえに会えるとは運がいい、と男は言った。

 何の御用でしょうか、と僕は慎重に質問した。

 男は答えた。何の御用もあるか。おまえのせいで、俺の大切な人が怪我をしたんだ。しかも女性にとって大切な顔だぞ。

 僕はだいたいの事情を察した。この男は、あのマイクロソフトの女性の彼氏なのだ。そして、彼は僕がやったと思い込んでいる。

 だから僕は反射的に、僕じゃない、と叫んだ。

 だが、男は認めなかった。はっきり見ていたんだ。おまえがやったのを見ていたんだ。

 それは絶対にあり得ないことだった。僕は、怪我をするほど重いものは投げていないのだ。

 だが、いくら説明しても男には通じなかった。

 いかれてやがる。僕はそう思った。

 だが、何が起こったのか理解できないうちに、僕は大きな衝撃を受けた。

 口の中に変な味がした。そして、唇から何かの液体が流れ出していた。

 僕はそれをぬぐって、それを見た。

 それは薄暗い照明の下で見ても、赤かった。

 それから激しい痛みが伝わってきた。

 僕は殴られたのだ。

 そして、それは最初の一発でしかなかった。

 僕は背中を壁に押しつけられた。そして、男は更に僕を殴り続けた。

 殴られる僕の耳に男の言葉が聞こえた。

 「おまえみたいな何もしらないガキンチョが、一人前に正義の味方面をするんじゃないよ。何がLinuxだ。Windowsは穴だらけだと? 冷静にセキュリティ問題の数を数えてみろ。それに、いくらLinuxがどうのと言ったところで、アプリの数は足りないし、対応できない分野も多いじゃないか。実際、いきなりWindowsからLinuxに変えたところで、お客さんが必要とするものを提供できないケースだらけだ。おまえは、実際に、お客さんがパソコンをどう使っているか分かってるのか? もちろん、お客さんってのはおまえみたいなパソコン通気取りのお子様じゃないぞ。真剣な業務の中でシビアに使われているパソコンだ。俺たちのお客様というのは、そういう人達なんだよ。おまえらみたいな、何の責任も無く、へらへらと好き勝手にパソコン使ってる連中じゃないんだよ!」

 途中から僕は男の言葉が聞こえなくなっていた。

 そして、痛みも感じなくなっていた。

 ふと気付くと、男は居なくなっていた。

 僕は、無人の工場の間の狭い路地に横になっていた。

 僕は、痛む身体をやっと立たせて、アパートに戻った。

 僕は歩きながら思った。部屋に戻ったらすぐに、パソコンの電源を入れて、この出来事をインターネットで暴露しよう。明らかに、マイクロソフトのスキャンダルになる。書けば、きっと全国の、いや全世界の同志がマイクロソフト社員の闇討ちの悪行を盛大に叩いてくれるだろう。僕は、負傷と引き替えに聖戦のヒーローになるのだ。

 だが、アパートの部屋に戻ってみると、もはやヒーロー気分は消えていた。そのかわり、応急手当をしなければ、と思った。出血多量で死ぬのはとても怖かったのだ。

 そこで、母親が無理に押しつけて置いていった救急箱を開いて、手当をした。この時ばかりは、母の顔が頭に思い浮かんだ。母に本当に感謝する気持ちが起こったのは、もしかしたら生まれて初めてかも知れない。

 そして、僕はあることに気付いた。

 病院に行かねばどうしようもない怪我は1つもなかった。

 あの男はそんなに非力だったのだろうか。と僕は考えた。だが、思い返してみると、男は何かの格闘技の心得でもあるかのように、無駄のない動きをしていた。そこから考えれば、致命傷を与えようと思えば、それはできたはずだ。できたはずなのに、男はそれをしなかった。つまり、僕は手加減されたのだ。そして、手加減されてすら、僕は手も足も出なかったことになる。

 手加減したことを後悔させてやろう。僕はそう思って、パソコンの前に座った。

 CPUはAMDでOSはLinuxという、僕の自慢のパソコンだ。同志の誰に見せても、最先端の立派なパソコンだと褒めてくれる最高のチューンナップが施してある。

 だが、電源スイッチを押そうとしたとき、激しい恐怖感が僕を襲った。

 僕がパソコンを使って何かを行えば、あの男がまた襲ってくるかも知れない。そんな気がしたのだ。

 僕の頭の中で、いろいろな考えがぐるぐると巡った。

 僕が何かを行えば、誰かが傷つくかも知れない。たとえ正義の聖戦であっても。そして、僕が手を下していなくてもだ。たとえば電子掲示板で何かあったときに、その掲示板に僕の書き込みもあれば、僕がやったと思われるかも知れない。そして、僕はやっていないという主張は、通用しないのだ。

 僕は、自慢のパソコンが酷く恐ろしいものに見えて、そこから離れた。

 そして、気付いた。

 この恐怖感に、同志はまだ気付いていない。

 これを同志に教えなければならない、と僕は思った。そうして警告しなければ、次にこの恐怖に襲われるのは同志かも知れない。

 僕は翌日、同志が集まる大学のパソコン室に向かった。

 僕は、同志に必死にこの恐怖について説明した。

 だが、同志が僕に向けたのは、激しい罵倒だった。

 「正義はこっちにあるんだぞ」

 「殴られたら怖くてたまりませんってか? そんな臆病者はいらない!」

 「そんなのはマイクロソフトにシッポを振るのと同じだぞ」

 「おまえも犬に堕落したのか」

 それでも更に訴え続けると最後の言葉が僕に投げつけられた。

 「おまえなど、もう同志ではない」

 「死ねよ、豚野郎」

 僕は、「死ね」と「豚」という言葉に心当たりがあった。マイクロソフトの女性に僕らが投げつけた言葉だ。それが僕に対して投げつけられたことで、僕の中の何かが壊れた。

 そして僕は引きこもった。

 大学にも行けなくなった。

 大学からは、再三呼び出しがあったが、それに応じることはできなかった。

 僕はたった一人、アパートの部屋で繰り返し自問した。

 僕は間違いを犯したのだろうか。

 そして、繰り返し、自分の判断と行動を思い返して、検討した。

 いくら考えても、自分の判断に誤りがあったとは思えなかった。

 悪いのは、学園祭にマイクロソフトの女を呼んだ実行委員であり、僕らの声に耳を傾けなかったマイクロソフトの女であり、闇討ちを仕掛けた女の彼氏であり、そして、僕の言うことを理解せず、豚呼ばわりした同志達であるはずだった。

 しかし、間違っていないはずなのに、僕はこうして引きこもっている。引きこもるというのは、どう考えても間違った行為であるはずなのに。

 ある日、僕は愛読するマンガの新刊が既に発売されていることに気付いた。大学には行かないが、近所の商店街には買い物に行くようにしていたので、そこの本屋に行けば買えるはずだった。だが既にそれは売り切れていた。それなら、パソコンでインターネットの書店に発注すればすぐ届くだろう。

 僕はそう思って、部屋に戻るとパソコンの前に座った。あの日以来、僕はパソコンに手も触れていなかったし、できるだけ、見ないようにしていた。そのパソコンの前に、僕は座ったのだ。

 そして、僕は驚いた。

 あれほど素晴らしい夢の詰まった理想の輝くパソコンが、今や単なる醜悪なつまらない白い箱にしか見えなかった。

 どうして、こんなつまらない箱に、僕は夢中になっていたのだろうか。そんな風に僕は思った。

 そして、その問いかけは、かつての毛布を持った少年への疑問と似ていることに気付いた。

 あの少年は、どうして、こんなにつまらない毛布をいつも持っているのだろうか。

 そして、あの毛布の意味がやっと理解できた。あの毛布には何の素敵な秘密も隠されてなどいなかったのだ。このパソコンが僕に素敵なことを何も与えてくれないただの箱であるのと同じように。

おわり

(遠野秋彦・作 ©2004 TOHNO, Akihiko)

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