四季 冬
紀伊國屋書店

2004年03月24日
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四季 冬 森博嗣 講談社

Written By: 川俣 晶連絡先

 おそらく、大多数の読者にとって肩すかしと感じさせたであろう本ではないかと思います。私も、結末の意図を把握しきれなくて、しばらく考えこんでしまいました。

 とはいえ、書かれていることはそんなに難しいことではありませんね。

子供という解釈 §

 四季という捉えがたいほどに頭の良い人物の本質は何か。そして、一見反社会的とも見える行動に出る1つの理由について、以下の箇所が明瞭に述べています。

「私は、最近、自分がようやく大人になったと感じています」

(中略)

「メモリィが大きい、処理能力が高い、つまり賢いものほど、長い期間、子供である必要があるのです。動物の中では、人間が最も成長が遅い。何年も子供を経験します。それなのに、私が小さい頃には、皆が……、私の親も、親族も含めて、誰も、私を子供だと扱ってくれなかった。頭脳が明晰であることは、大人の証だという錯覚があったためです。しかし、それはまったく正反対でした。頭脳が明晰なのは子供の方ですし、頭の良い者ほど、成長は遅い。大人になかなかなれないのです。あのノコギリを使ったとき(注:つまり娘を殺害したとき)も、私はまだ子供でした」

 つまり、四季は成長が遅く、ずっと子供の状態であったと。それゆえに、四季の行動は分別ある大人の行動というよりは、子供の行動として見ると分かりやすいわけですね。たとえば、自分の子供が欲しいと思う気持ちや、それを自ら殺してしまう気持ち。そして、その遺伝子を保存したいと思う気持ち。一見筋が通っていない行動は、あらゆることを試してみなければ気が済まない子供のような気持ちによるもの、と解釈することはできるでしょう。そして、本来子供であればできないはずの数々の行動が実現できてしまったのは、周囲が四季を大人として遇していたから、と考えることもできますね。

他人が頭の中に生き、死にながら生きる存在? §

 もう1つ、以下の部分が非常に分かりやすく、この作品の後半の状況を説明していますね。

「では、あと、百年くらいしたら、僕も博士のようになれますか?」

「そう、百年では無理です」

その百年が過ぎた。

彼は私に追いついただろうか。

 後半に登場する人物達は、ほとんど全て、スイッチを切ると消えて無くなるような存在に過ぎません。つまり、四季の頭の中に複製された彼らのイメージが、四季と対話しているようなものです。つまり、ここに出てくる犀川は現実の犀川ではないわけですね。

 そして、この時点で、犀川と交流のあった時代から既に百年が経過しています。その点でも、ここで四季が話している相手が現実の犀川であるはずがありません。

 更に、この百年という時間を費やして、初めて四季は大人になることができた、ということが暗に示唆されていることになります。百年の時を経ることは、作中で人工冬眠的な技術であることが示唆されていますが、常識的な意味で既に生きていない、という解釈もあり得る幅が残されているような感じも受けます。

人間が好き §

 最終的に四季は「人間が好き」と言い切ることができる境地に達したわけです。

 しかし、もっと異常な世界に辿り着いて自滅するか、あるいは開花して欲しかったという気がしないでもないですが。

 この件は、この文章では重要ではありません。

これは面白かったのか? §

 この四季4部作。あるいは、S&MシリーズやVシリーズを含めて、それらが面白かったのか、というのが最もシンプルな問いかけとして適切なのだろうと思いますが。

 うーん、難しいですね。

 「冬」を読み終わったあとの感想としては、実に答えがたいです。

 そもそも中身が分かったとも言い切れないし。

 これで満足したのかどうかも、自分で良く分かりません。何か満たされたものはあるけれど、それが何であるか、見切れないところが残ります。

 あるいは、見切れないものを読者に残して終わるのが作者の意図なのかも知れません。

余談 §

 カバーの折り返しに印刷されているシリーズの数を数えたところ。

 S&Mシリーズが10冊。Vシリーズが10冊で、数が一致しています。

 そして、四季が4冊。短編集が4冊。

 これらの数に何かの意味が与えられているのかも知れません。短編集の数は意味がないという可能性もありますが。10+10+4=24には、何かの意味があるという可能性は考えられます。

 とりあえず、次に森氏が新しいシリーズを手がけるとしても、それが10冊で終わったり、あるいは他に意味のある作品数で終わると言うこともあり得るかも知れません。

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