2004年06月03日
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「アンチLinuxでも信者でもない」という視点は本当に中立であるか?

Written By: 川俣 晶連絡先

 こういう記事を見ました。

 基本的には、「OSS万歳!」になっていないので、割とまともとは言えますが。

 ただ、1点、おそらく多くの人が誤解するだろうと思ったことがあります。

 まず、以下のように、アンチでも信者でもない、と中立であるという主張を述べています。

「総務省はLinuxにとって敵であるつもりはないが、無条件の味方にもならない。小うるさいことも言うだろうし、検討した結果としてOSSは使えない、という結論になることもあり得る。アンチLinuxでも信者でもない」

 それとは別に以下のような文章で「ユーザーの立場」であることを示しています。

「ユーザーの立場としては選択肢が多いことを熱望するため、特定のOS以外に選択肢がないという現状は打破したい。その時にはLinuxが有力な選択肢に成り得ると考えている」

 実は、オープンソース問題で「ユーザーの立場」を表明した場合、全く中立にならないのではないか。しかし、多くの人は、中立ではないという受け止め方をしないのではないか。

 そういう感想を持ったわけです。

オープンソース問題における対立の構図 §

 あまり行われていないような気がしますが、ソフトウェアに関わる人達を大ざっぱに分類すると、以下のようになると思います。(あくまで大ざっぱですよ。念のため)

  • ソフトウェアの作成者
  • ソフトウェアの販売者
  • ソフトウェアの利用者(ユーザー)

 ソフトウェアの作成者は、ソフトウェアの作成を通じて、価値を創出します。

 ソフトウェアの販売者は、価値を必要としている者と、価値を創出した者の仲立ちとなります。

 ソフトウェアの利用者は、価値を消費します。

 伝統的な主要なスタイルから行くと、この3者は、お金を仲立ちとして価値を交換します。(もちろん昔から無料のソフトウェアは存在するし、私自身それに大きく関わっているけれど、それは横に置きます)

 しかし、オープンソースでは、お金を仲立ちさせる行為が制限されます。基本的には、ソフトウェアの価値に値段を付けることができなくなります。

 このような状況で、それぞれの立場に「経済的な視点で」どのようなメリットとデメリットがあるかを考えてみましょう。

 まず、ソフトウェアの作成者には明瞭なメリットがありません。価値に値段を付けることはできないため、作成したソフトウェアそのものを通じて経済的な視点を持つことができないからです。

 次に、ソフトウェアの販売者から見た場合、オープンソースソフトウェアは大きなメリットを持ちます。それは仕入れ値が大幅に安くなることを意味するからです。ソフトウェアの販売者自身は、仲立ちを行う機能から収入を得るわけで、たとえソフトウェアはタダになっても、収入は無くなりません。むしろ、仕入れ値が安い分だけ、商品を安く売ることができ、営業的な強みを得ます。

 最後に、ソフトウェアの利用者は、価値を得る対価は少ない方が嬉しいので、オープンソースという状況からメリットを得ます。

 このように考えると、ソフトウェアの作成者、ソフトウェアの販売者、ソフトウェアの利用者の3者の中で、ソフトウェアの作成者を除く2者には多くのメリットがありながら、ソフトウェアの作成者には明瞭な経済的メリットが見られないことが分かると思います。

 ざっくばらんな言い方をすれば、ソフトウェアの作成者から見たオープンソースソフトウェアとは、他者であるソフトウェアの販売者とソフトウェアの利用者にだけ経済的なメリットを与える方式と見ることができます。

 つまり、ここで「オープンソースは泥棒である」という主張が成立します。

真に中立の視点はどこにあるのか §

 以上のように考えると、ソフトウェアに携わる立場を以下の3つに分類するなら、ユーザーという立場の表明は全く中立とは言えない、と感じます。

  • ソフトウェアの作成者
  • ソフトウェアの販売者
  • ソフトウェアの利用者(ユーザー)

 ユーザーも特定の利害を持った関係者の1形態であって、ユーザーの意見を尊重することが問題を解決しない、という視点を持たないと、オープンソース問題は解決しないのかもしれません。

 とりあえず、ユーザーの立場で何を正しいと叫んだところで、それは何ら問題の解決に寄与しないだろう、という感想を述べて終わります。

オマケ: しかし、オープンソースに協力的なソフトウェアの作成者も…… §

 当然、ここでは、オープンソースに協力的なソフトウェアの作成者もいるという反論があり得るでしょう。

 彼らは、単純に模式化したモデルから抜け落ちているだけ、と言うことも言えますが、個別事例を見るとそんなに単純ではないことも分かると思います。

 まず、ハードやシステムを売っているメーカーの場合、社内でソフトウェアを開発しているとしても、それは彼らにとってはオマケでしかありません。必ずしもソフトウェア単独の価値を金銭に置き換える必要はないのです。しかし、ソフトウェアをオマケ扱いして、それに対する正当な価値を評価しないことの弊害は、過去に既に出ていると思います。

 それから、別の経済システムに支えられたオープンソフトウェア開発も多いこともあげられます。ソフトウェアの価値に対して、利用者は金を払わずとも、プロジェクトのスポンサーが金を出しているケースがあります。このような事例では、ソフトウェアの作成者はスポンサーに対して、価値を金銭に交換する関係を持っていると言えますが、スポンサー次第でソフトウェアの開発が左右されるリスクを持ちます。その点で、ユーザーが価値に対する代価を支払う有償ソフトよりも、ハイリスクである可能性があります。

 もう1つ、マイクロソフトのライバル企業(ソフトウェア開発企業)がオープンソフト支持を打ち出すケースがありますが、これはマイクロソフトを弱体化させ、味方を増やす演技であると見た方が良いでしょう。本当に重要な製品は、けしてオープンソース化していないはずです。

 最後に、純真にオープンソースの理想を信じて自ら喜んでオープンソースソフトウェアを開発する人達もいます。彼らの場合、自らの創出した価値を無償で他人に分け与えていることになります。しかし、価値を創出させるためのコストが発生していない訳ではありません。そのコストは、開発者本人が負担していることになります。仮に、開発者本人が自ら稼いだお金をそのコストに充当している場合は、何ら問題ありません。それは開発者本人が自分で使えるお金を自己責任で使っているだけのことです。しかし、親のすねを囓っている学生が、きちんと学業をこなしていれば良いですが、もしも学校をさぼってオープンソースソフトウェア開発を行っているとすれば、それは「親の金の泥棒行為」と見ることができるかもしれません。

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