最初に断っておきます。
これはロリコン小説ではありません。
幼女に対する特別な嗜好を持った人が、まさにその嗜好を満足させるために読むような内容ではありません。
タイトルの「ロリータ」という語は、性的対象物としての幼女ではなく、ゴシックロリータ(ロリィタ)のようなファッション用語として受け止めた方が良さそうな気がします。
という前置きをしておいて。
これぞ本来あるべき文学なのか? §
一言で言えば、この小説には、心惹かれる部分と、嫌悪する部分が激しく同居していて、心がかき乱される内容と言えます。そして、この小説は、私の中でカテゴライズできません。印象をどこに納めれば良いのか、既存の分類の枠に上手くはまりません。おそらくは、新しいのでしょう。新しいことは本来あるべき文学の条件です。(文学の定義にもよるものの)
そういう意味では、極めて意義深い小説なのではないか、という気がします。
しかし感想を放棄せざるを得ないこと §
問題は、どこまで深く読み込めば読んだことになるのか、見当も付かないことです。
とりあえず、この作品の登場人物達が、私が読んでいない「多重人格探偵サイコ」の登場人物であるらしいことは推測できました。
しかし、あえて「多重人格探偵サイコ・外伝」のように名乗っていないことから考えて、この本を単独で読んでも意味が通るように書かれているはずだと判断しました。けして、多重人格探偵サイコの読者にのみ意味が分かるようなものではなかろうと。
では、この本に書かれたことだけから、どこまで深く作品に入り込んでいけるのか。その懐の深さが全く見当が付きません。一応、いろいろ考えてみました。
大江公彦と℃の真の関係、℃が行った殺人の意味、℃が点滴をしていたり普通の食事ができない理由、℃の胸の傷の理由、℃に定期的に送られてくる大江公彦からの電子メールの意味と℃がどこにいても点滴などが届く理由、朔と℃が結婚したと称する行為の内容とそれを電子メールで送らねばならなかった理由、作品後半になって急に語り手が℃から麒麟に変わらねばならなかった理由、等々。
確かに、直接言葉では書かれていないことを、書かれた言葉から推理して組み立てていくことができます。むしろ、やり方さえ把握すれば、非常に組み立てやすい形で作品中に素材が点在しているという感じも受けます。一見して分かりにくい作品に見えながら、ある臨界点を突破するとむしろ驚くほど分かりやすいとも言えます。
しかし、それはかなり読み手側の恣意的な解釈に依存する部分があって、本当に作者の意図した暗に示されたドラマに到達していると言えるのか。そして、どこまで追求すれば十分なのか。どこかに、大きな見落としがあるのではないか。いろいろな悩みが発生します。おそらく、それらの悩みは、この作品が自分の中でカテゴライズできないことと関係があるのだろうと推測します。
そのような訳で、現時点ではこの作品に対する感想を明瞭に形成することができません。
たぶん、もう1回ぐらい、きちんと読み直せば、もっといろいろなことが分かるような気がします。まだ分からないことがいくつも残っていますが、それに対する答えが得られるかもしれません。しかし、分かったからと言ってそれが正しいとも十分であるとも言えません。とりあえず、時間もないので、ここで終わりと言うことにしておきたいと思います。
