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2004年07月28日
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押井守 河出書房新社

Written By: 川俣 晶連絡先

押井守と佐藤大輔の名前がつながる驚き §

 この本を買った理由は、押井守と佐藤大輔の対談ですが、これには驚かされました。

 この2人は、私から見て特に注目する人物であったわけですが、相互に関係があるなどとは思っていませんでした。しかし、押井守が多数の架空戦記を読み、佐藤大輔しかないという結論に達したという話は驚くほどに良く分かる説得力です。まあ、私は谷甲州も読みますが、1ジャンル1ライター、佐藤大輔だけという感想は良く分かります。

ラカン §

 更に、石倉由氏の文章からはラカンの名前が見えます。ラカンというのは最近私が意識し始めた名前です。(私の乏しい知識と経験の範囲内で)現代日本でトッププラスの思想家であると思っている斎藤環氏がラカン派を名乗ることから明確に意識し始めた名前ですが、最近徐々に自分の思うことと関係する部分がありそうだと気付きはじめ、近いうちに著作を読んでみたいと思っている人です。しかし、まさか押井守の本でラカンの名前が出てくるとは思ってもいませんでした。

世界は予想以上の必然でつながっているらしい §

 こうして、1冊の本の中に、特に注目する名前が複数出てくる現象を目の当たりにすると、どうも世界は思った以上に必然の連鎖でつながっているらしいと思いました。つまり、私が個人的に選び取って見ている世界というのは、たまたま偶然に私が選び取ったものの集合体というわけではなく、ある種の問題意識を持って選び続けると誰が行っても必然的に収斂していくものなのではないかと。とすれば、私の行っていることは孤独な変人の奇矯な振る舞いではなく、潜在的に同じ方向を指向する仲間が存在することになります。We are not alone!というわけですね。

 もっとも、それが一般から理解されるものであるかは別問題であって、「孤独な変人の奇矯な振る舞い」が「孤独な変人集団の奇矯な振る舞い」変わるだけという可能性もありますが (汗

ハッとさせられた印象深い言葉 §

 ハッとさせられた印象深い言葉を以下に引用します。

p157 天使と機械 安藤礼二より

一見電脳空間の新たな可能性を描いているように思われる『攻殻機動隊』であるが、そのもっとも根源的なヴィジョンの直接の起源は、20世紀を軽々と飛び越えて、19世紀の蒸気機関の発明の時期まで遡る。

 人と機械の境界の曖昧化という問題提起は19世紀まで遡るわけですね。

 そして、それが蒸気機関と関係するとなると、スチームパンク的世界観で人と物の境界が問われるようなドラマがあっても、あながち荒唐無稽とも言えないわけですね。

とはいえ全てが褒められたものでは…… §

 全体として益の多い本でしたが、思わず「なんじゃこりゃ」という文章も。

 たとえば、切通理作氏の文章は、愕然とさせられます。彼は、イノセンスを数日で忘れそうになるぐらい印象の薄い映画だったと書いています。これだけ挑発的な映画を見て、どうして印象が薄くなれるのかと思いながら読み進めると。そのあとで、現実と夢、実在とバーチャルの境界の揺らぎは押井守作品に共通するモチーフだが、などと書いてイノセンスもそういう映画としてくくろうとしているような文章が出てきます。実際に、この映画で問われていることは夢と現実でも実在とバーチャルでもなく、人と物の境界だというような話は繰り返しあちこちで語られているような気がするし、映画の中でもまさにそのようなことを取り上げるシーンが繰り返されるわけです。しかし、その部分は見えていなかったようですね。仮に、それらが見えていなければ、印象の薄い映画になるのは当然だと思います。映画の大半の割合を使って繰り返し語られたメインテーマを差し引けば、どんな映画も印象が薄くなるでしょう。

 まあ、こういう受け止め方をしている人は他にもいるので、それだけで責められることではありませんが。

 結局のところ、彼は押井映画とはこういうものだと先入観で思ったものしか見ていないのでしょうね。いかに、絵や音によって、豊潤に様々な挑発的なことを語ろうとも、受け手がそれを無意識的に拒絶してしまっては届きません。これは、作り手の問題と言うよりも、受け手の問題ですね。もちろん、一般の観客であれば、「わかんねぇぞ、分かるように作りやがれ」というクレームを付ける権利があります。しかし、映画を見て、原稿料をもらう原稿を書く立場としては、かなり物足りないと言わざるを得ないですね。

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