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2004年09月08日
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大塚康夫の新作アニメーションがこんなところに! Yasuo Otsuka's Flip Book・Vol.1 「春/HARU」

Written By: トーノZERO連絡先

 あの大塚康夫さん、と言って通じない人も最近は多いと思いますが。日本のアニメ界に多大な貢献をして、今もまだ新人の指導を通して活躍を続けるあの大塚康夫さんです。

 その偉大さは、調べる気があればいともたやすく分かることなので、ここ説明することはしませんが、アニメのルパン三世というキャラクターを確立しただけでも、十分に特筆すべき業績でしょう。

 最近では、DVD『大塚康生の動かす喜び』などというものまで買い込んで、あらためてその人物としての大きさにうちふるえたりしていますが。

 その大塚康夫さんの新作アニメーションが、あまりに意外なところにあったという話です。

 それは、ワンダーフェスティバル 2004[夏]というイベントでした。2004年8月29日、東京ビッグサイトで開かれたものです。(川俣さんが行った記録)

 そこで、それはあまりにさりげなく1ディーラーの卓上で販売されていました。

 値段は1000円。

 今時、新作アニメーションが1000円で買えるのか、と言われそうですが、確かに税込み1000円でした。

 そのタイトルはこのようなものでした。

大塚康夫のパラパラマンガ

Yasuo Otsuka's Flip Book

Vol.1 「春/HARU」

 厚紙を閉じたもので、外見は薄めの日めくりカレンダーに似ています。そして、それを手でパラパラっとめくることで、蝶を捕まえようとする猫のコミカルな動きが再現されます。

なんだパラパラマンガか、と言うなかれ §

 単なるパラパラマンガを売った、というだけの話であれば、それは大した話ではありません。

 しかし、あの大塚さんがやる以上、そんなに単純な話ではありません。

 パラパラマンガと言えば、子供が教科書の隅に書き込むようなものを連想させられたりしますが、実はここで書かれている内容は、アニメーターが見ている「動く絵」に相当するものです。アニメーターが作画して、その結果をパラパラっとやって確認するという手順に相当する作業を、「視聴者」に体験させてくれる独特のメカニズムとして機能しています。

 そして、巻頭に掲載された大塚さんの言葉が、これに込められた高度な思想性を示しています。大塚さんは、けして現在のアニメを否定しません。そうではなく、別のものがあるという価値観を提示します。ここで示されているのは、アニメーションによって表現される楽しい動きです。それは、シナリオライターが考えるストーリーの面白さとは別次元のものです。そのような動きの楽しさが、現在の日本のアニメーションに欠けていると言います。確かに、今の日本には、優れたアニメ作品が多数ありますが、それらを認めた上で、それらが扱っていないものがある、と言っているわけです。

 更に、もう1つの意見と合わせると、ずしっと重いものを感じさせる強い思想的主張となります。ここで、大塚さんは、『(漫画)アニメーションの基本的な目的は「子供達に喜んでもらえる」ものでありたい』と述べています。

 これは、アニメ業界が、「アニメは子供のもの」という偏見と闘い、大人向けの作品が受け入れられるように努力してきた歴史に真っ向から逆行する意見と言えます。そのような意見に不快感を示すアニメ業界の関係者も多いでしょう。

 しかし、高度な表現力によって理屈抜きに動きによって楽しませることができるアニメーションは、難しい理屈を駆使するには未熟でありすぎる子供向けの表現手段として優れているはずです。

 たとえば、映画「となりのトトロ」では、理屈抜きに動くシーンの楽しさ、説得力によって子供達をとても喜ばせます。子供がトトロばかり見て困る(あるいはトトロを見せておけば手が掛からない)とまで親に言わせるケースがあるほどです。

 そのような表現が、今の日本のアニメにはあまり見られないという指摘は間違ってはいないように感じられます。それはアニメーションの持つ可能性の1つを生かし切れていないことを意味します。

これは容易にチャレンジできる §

 そして、もう1つ特筆すべき大塚さんの主張は、楽しい動きを見せるアニメーションは、とても簡単にチャレンジできると言うことです。

 たとえば、猫の走りは絵を4枚書けばできるという実例が示されています。

 ストーリーのあるアニメであれば、膨大な労力が必要となり、とても気軽にチャレンジとは言えません。しかし、動きを楽しむアニメーションであれば、遙かに少ない枚数で、「視聴者」に楽しいと思わせる成果を得られる可能性があるわけです。

 そこから考えれば、商業的な要請によって成立した今のテレビアニメ等のスタイルが当然でも絶対でもなく、もっと他に可能を秘めていることは明らかでしょう。

 その可能性に気付き、開花させていくことは、やる気のある誰かがいればできることだ、と大塚さんは挑発しているようにも感じられますね。

 残念ながら、今の私には取り組む時間がありませんが、私もそれは可能だと思います。

 既成のアニメの常識をぶち壊して、面白いものを見せてくれる誰かが出現することを、ワクワクする気持ちを持ちつつ、期待したいと思います。

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