編集者的な仕事の中には、仕事をしない著者の尻を叩いて仕事をさせるという作業が含まれます。
たとえば、赤松健とクリエイション論などという生意気で偉そうな文章を書いている遠野秋彦。
こんなもん書いてる暇があったら、出版予告に名前を出している小説の完成原稿をはやく寄越せ!!
しかも、この生意気な文章、日本人の心の故郷「宮崎駿」やら、今をときめく人気まんが家の「赤松健」と彼が同じ創作手法を使っているなどと主張し、これら立派な方々と同類であるかのような傲慢ぶりを発揮。
そういう偉そうなことは、同じぐらいの成功を収めてからとは言わないが、せめて約束した本を書き上げてから書け!!
まあ、そうやって尻を叩くわけですが。
その甲斐あって、やっと動き出したことがあるようです。
2002年頃から電子出版事業部でアナウンスだけが行われ、「勇者の血統(仮題)」あるいは「勇者伝説の秘密(仮題)」とされた小説を何とかする作業に着手したいという話が。
この小説は、実は一応完結した原稿が存在します。
しかし、試読者のウケが悪く、このままでは駄目だ、ということで改稿を要求していたものです。
作品構成上の問題は、作品のクライマックスとなる部分。投獄された勇者の婚約者となった主人公が、旦那(つまり国王)を陰謀で投獄されてしまった若い王妃と共に、女二人で組んでそれぞれの婚約者と夫を救い出すという部分にあります。
遠野秋彦の第1稿は、実際に救い出すための活動そのものを描いていません。救い出すための方法を、国王の母親によって示唆されるシーンがあり、その直後には既にエピローグに突入し、牢獄から出てくる勇者と国王というシーンになってしまいます。
一応、どのようにすれば女二人で彼女らの大切な人達を救い出せるのか、その方法は述べられています。しかし、いざこれから救おうというシーンの直後が、救うための全ての手順が終わった後、というのもあまりに唐突です。さあ、これから凄い冒険が始まるぞと期待した読者も裏切ります。
それでも遠野秋彦は強弁しましたよ。
「言いたいことは全部言い切ったのだから、それ以上書くことはないんだよ」
そうじゃないだろう。小説は読者あってのもの。言いたいことを言うだけで小説は成立しないのだよ。
しかし、今回は、第1稿に何が足りないかが分かり、準備していた第2稿の欠陥も分かったと遠野秋彦は言ってきました。
何でも、まさに上記の欠陥と全く同等の欠陥を持つアニメをテレビで見かけて、初めて裏切られる読者の気持ちが親身になって分かったと言います。
ならば、分かった瞬間から改稿に入ったのかと言えば、そうではありません。
「いや、分かったんだけどね。即座に秀丸で原稿を開くというところまで発想がつながらなくて……」
つまりは、尻を叩かれて、やっと原稿を秀丸で開いたようです。
やはり、著者の尻を叩くという編集者的な仕事は必要とされます。