2005年10月19日
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ガンパレード・オーケストラ、この気持ちの悪さに、驚くべき正体は隠されているか?

Written By: トーノZERO連絡先

 ガンパレード・オーケストラを第3話まで見ました。

 その感想というよりも、考察めいたものを書いてみます。

明らかに崩壊したドラマ §

 単純に要約してしまうと、この作品は、ロボットに乗った美少女が怪獣と戦う内容であると言えます。萌え系オタク向けアニメの典型的な1バリエーションと見ることができます。

 しかし、そのようなお約束のパターンは完全に崩壊しています。

 まず、多数の男の子達が存在すること。

 当然のように期待されるハーレム状態が達成されていません。

 そして、主人公は美少女でありながら中隊長であり、ロボットに乗って戦いません。

 更に、赴任早々に感情的な軋轢が発生し、傷つく少女達が出現します。これは、典型的な萌え系ハーレムアニメにおいてしばしば見られる、傷つくことがない少女達というお約束に反します。

 それに加え、男性視聴者が感情移入する対象となる、個性が希薄化された男性キャラクター主人公の不在という特徴を示すことができます。

 つまり、萌え系オタク向けアニメとして見るなら、この作品はいびつに壊れており、本来なら慎重に取り除かれるべき様々な夾雑物に満たされ、作品そのものがある種の不快感を強く放ちます。

明らかに崩壊した軍隊 §

 更に、驚くべきかな。

 この作品において、怪獣と戦う軍隊は、ほとんど学校という感覚で存在し、そのように描かれています。

 そして部活動の感覚の延長線上で、戦闘が行われます。

 軍隊が備えているべき規律は、この作品には存在しません。指揮官に対する命令不服従が罪として問われない軍隊などあり得ませんが、ここではそれが問われないのです。

 ゆえに、第3話までの間に主人公達の部隊は一度も勝利していませんが、それは当然の結末という他ありません。

 むしろ、組織やシステムに含まれる明らかな不備が、明らかに予測可能な悲劇を量産するように機能しているとすら言えます。

 極めて不快な展開ばかりが続くのは、まったくの当然です。

が、しかし良いところある §

 このように明らかに壊れているにも関わらず、いざ戦闘シーンになると、悪くない描写がいろいろと見られます。

 たとえば、戦場心理による錯誤や暴走などがそれです。実はこのドラマを描いている人は、戦場というものがどういう場所かを、割と良く分かっているのではないかとすら感じます。

 特に、部隊内にある極めて女々しい悪意の感情は、まさに軍隊らしいものであると言えます。このような感情が噴出することは、実は軍隊のリアリティであると言うことができるのです。

 無謀に突っ走って被害を拡大する新米指揮官もね。

 もっと言ってしまえば、実は「組織やシステムに含まれる明らかな不備が、明らかに予測可能な悲劇を量産するように機能している」という指摘が可能であることは、実は作り手側が「組織やシステムに含まれる明らかな不備」を正しく認識し、それによって「悲劇が量産される」という当然の展開を描いていることすら推測されます。これは、優れたある種の誠実さと言っても良いと思います。

明らかに不備な組織やシステムを描くということは? §

 つまりですね。

 このように考えたとき、この作品は意図的に不快なドラマを描いていることになります。

 もしも、この作品が人類と怪獣の総力戦を描くことを目的としているならば、おそらくこのスタッフは、遙かに整備され、実戦的な軍隊を描き出すことができるだろうと思います。

 しかし、実際に描き出されているのは、明らかに欠陥のある軍隊です。

 ということは、それが欠陥品であると分かった上で、それをあえて描いていることになります。

 それはいったいなぜ?

 何のために、そのような不快なものを描いてみせる?

まるで部活動のような軍隊を軍隊だと思うのは誰だ? §

 まるで部活動のような軍隊(地球防衛軍や正義の味方を含む)というのは、あえてそれを行っている例を除けば、基本的には出来の悪い安物のアニメ、コミック、ゲームなどの定番です。

 それらにどっぷりと浸かり、そういうものだと思い込んでいる者達からすれば、部活動と軍隊の相違は武器を持つかどうかの差としか認識されていないでしょう。

 そして、戦争や軍隊という存在から縁遠い(厳密に言えば、けして縁遠くはないが、そのように刷り込まれてしまった)日本の若者達にとって、軍隊のリアリティとはそのようなフィクションによって得られた知識に支えられることになります。

 そのことは、新しいフィクションを産み出す際に、その程度の水準のリアリティで「リアルな軍隊を描いた」と思ってもらえることを意味します。むしろ、本当にリアルな軍隊は、彼らにとってリアルではないとすら言えると思います。

 その結果、リアリティを支えるフィクションはどんどん本来のリアルからかい離していきます。

もし、その軍隊が実戦に投入されたら…… §

 ガンパレード・オーケストラの第3話までの内容に、私なりの一貫した解釈を与えるとすれば、それは以下のようになります。

 このアニメに主な視聴者層として想定されるオタク層が軍隊だと思っている軍隊を、よりリアルな戦場に投入すると何が起こるのかというシミュレーション。そして、実はそのような軍隊が、戦場において機能しないということを露骨に描いて見せること。それが極めて不快な出来事であることを、はっきりと視聴者層に突きつけること。それが、この作品で描き出されたことではないかと。

終わりに §

 というわけで、この作品を見て感じた印象……、いささか分裂して面食らった印象に、それなりの筋を通してみましたが……。これが正しいかどうかは分かりません。だから、けして信じてはいけないぞ! (笑。

 ちなみに、少なくともこの作品の第3話までに起きた悲劇は、ほぼ全て人災です。それは、エヴァンゲリオンにおいて発生する多くの悲劇が人災であるのと同じことです。それらは、ネルフという組織の本質的な欠陥によって起こるべくして起こった、予防しうる可能性があった悲劇でしかありません。それと性質は同じだと言うことです。

 ただし、エヴァンゲリオンにおいて、悲劇が人災であることをスタッフが自覚していたかどうかは怪しいと感じますが、おそらくこの作品のスタッフは有自覚的に描いているような気がします。その有自覚性の部分に、好ましい面白さを感じます。

 (でも、作品そのものは、やはり気持ちの良いものには見えません……)

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