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2006年01月05日
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あしたは2回やってくる

Written By: 遠野秋彦連絡先

 見知らぬ部屋だった。

 ハッと飛び起きてあたりを見回した。明らかに女性の部屋だった。

 そして、尊志はやっと思い出した。

 昨夜、黒猫がやって来た。

 黒猫は言った。「神王尊志さん。あなた、引きこもりですね? 親からの仕送りで生活する大学生なのに、もう一ヶ月近く大学にも行かず、インターネットとネットゲームとマスターベーションを繰り返すだけの毎日。他人との会話といえば、コンビニで買い物するときに店員と交わす短い言葉だけ……。しかも童貞」

 尊志はムカッとしたので返事をしなかった。

 「ときにあなた。生身の女性の身体に触ってみたくはありませんか? 若い短大生の身体なのですがね」

 尊志は触ってみたいと思った。アニメやゲームのキャラクターで満足するなど、変質者のすることだ。引きこもっていても、けしてオタクの仲間にならないというのが尊志のプライドだった。だが、他人と触れ合うのか怖かった。それが尊志の引きこもりの原因だった。

 それを告白すると黒猫は言った。「まさに、私が求めていたのはアナタです!」

 つまりこういうことだ。

 斜め向かいのマンションに、小森妃樹という短大生が一人で住んでいるのだが、彼女も引きこもりだという。彼女は冗談半分で実行した悪魔の秘法が成功してしまい、願望を叶える黒猫を呼び出した。彼女は、他人がとても怖かったが、男性の身体にとても興味があった。そして、彼女はこう願った。思う存分男の身体を見て触れるように、男の身体になりたいと……。そして、こう付け加えた。しかし女の身体にも未練があるので、女の身体でもいたいと。

 黒猫は「世界分割」と称する秘法でその願いを叶えることにした。

 そのためには、人格を入れ替えるための男が必要となる。それが神王尊志だった。

 男にも、小森妃樹と全く同じ出来事が起こるため、同じ出来事を喜んで歓迎する者でなければならない。その点、尊志には異存はなかった。

 そして黒猫は、今夜二人が寝た後で、「世界分割」の秘法を実行するという。

 それによって、全く同じ世界が2つ生まれる。1つの世界では、神王尊志が彼自身の体と小森妃樹の身体を占有する。彼は小森妃樹の身体で1日を過ごし、そして彼自身の体で再び同じ1日を過ごす。つまり、あしたが2回やって来る。

 そして、分割されたもう1つの世界では、小森妃樹が同じように神王尊志の身体と彼女自身の体を占有し、彼女もまたあしたが2回やってくる日々を送る。

 神王尊志は女小森妃樹性の身体を好きなだけ触ることができるが、小森妃樹もまた神王尊志の身体を好きなように触ることができる。

 しかし、二人の心は、別の世界に生きることになるので、けして出会うことはない。心や人格を持った他人ではなく、別の身体を持った自分と出会うことしかできないのだ。

 神王尊志は感心した。

 良くできている……。しかも、これなら尊志でも恐怖に逃げ出すことなく、女の身体に触り放題できそうだ。その上、契約したのは小森妃樹であるから、尊志は何の報酬も払う必要はない。

 尊志は黒猫の申し出を承諾した。

 黒猫は言った。「さあ、期待していてください。あしたが2回やって来ますよ!」

 枕元に、可愛いキャラクターを模したカレンダー付きのデジタル時計が置かれていた。 日付は5月31日を指し示していた。尊志は思った。黒猫の言うことが正しければ、5月31日を2回過ごすことになる。1回目のあしたがやって来たのだ。

 しかし、すぐにそのことは忘れ去られた。

 そう、夢にまで見た女性の身体がここにある。そして、他人はここにはいない。誰に何を見られることもなく、何を言われることも、何を思われることも気にせず、思い通りに触れることができる。

 尊志は、服を全て脱ぎ捨て、鏡台から手鏡を持ってくると、それを使って神秘の世界を観察しつつそれに触れる作業に没頭した。

 玄関のチャイムが鳴ったとき、尊志は激しいショックを受けた。

 他人が来たときにどうすれば良いのかなど、考えてもいなかった。

 その後、「安心しろ、僕だ」という聞き慣れない男の声が聞こえ、更に尊志は恐怖にすくんだ。

 だが、ふと気付いた。この声は聞いたことがある……。ああ、そうか。録音して再生した自分の声だ。

 ということは、神王尊志の身体を持った自分が訪問してきたことになる。

 尊志は、おそるおそるドアを開いた。

 それは間違いなく神王尊志の身体だった。

 「もう昼だぞ」と彼は言った。「朝から飲まず食わずだろう? コンビニ弁当を買ってきたぞ」

 確かに、朝食も取らずにずっと女体探検を続けていたが、どうして彼はそれを知っているのか……。ああ、そうか。これは明日の自分なのだ。2回目の今日を生きる自分なのだ。だから、今、小森妃樹の身体を持った自分が何をしたのか、全て知っているのだ。

 尊志は、もう一人の尊志を部屋に入れた。

 二人でコンビニ弁当を食べながら、尊志は他人の視点で自分の身体を観察した。どうも、思っていたのと違う……。もっと立派でハンサムだと思っていたのに。こうして見ていると、しおらしく貧相だ。

 小森妃樹身体は、食事でも勝手が違った。より少ない量で満腹になったのだ。

 二人とも食事が終わると、もう一人の尊志は言った。

 「そろそろ、おまえは思っているはずだ。男と結ばれたときに、この身体がどうなるのか……」

 それは図星だった。

 一人で身体に触れているだけでは、女体の神秘を全て知ることなどできない。

 「そして僕は知っている」ともう一人の尊志は言った。「おまえがけしてノーとは言わないことを」

 その通りだった。

 他人と結ばれることは恐怖の対象だったが、結ばれることそのものは常に憧れの対象だった。それに、これは他人との関係ではなく、相手は自分……、つまりマスターベーションに過ぎないのだ。

 「これで二人とも童貞と処女にお別れだな」と尊志は言った。

 そこで、もう一人の尊志は少し真剣な顔になって言った。「1つだけ警告しておく。おまえは血を流してかなり痛い思いをする。だが、男の側は生まれて初めての快感に大満足する。おまえは、もう一人の自分のために痛みを我慢する必要がある。というか、おまえは、というか僕は我慢したんだ。僕にとっては昨日にね」

 尊志はごくりと唾を飲み込んでうなずいた。

 「それでいいね?」ともう一人の尊志は言った。

 ノーと言えるわけがない。

 しかし、尊志はノーと言わなかったことを死ぬほど後悔した。尊志が痛いと叫ぼうと、待てと叫ぼうと、もう一人の尊志はまったく待ってはくれなかった。圧倒的に強い筋力で押さえつけ、自分のペースで、全てを終わらせた。小森妃樹の身体を持った神王尊志の処女喪失体験に、快感は無かった。

 一方、もう一人の尊志は、終わった後に本当に歌いながら部屋中を踊りまくった。それほどまでに気持ちが良いことなのか……、と尊志は痛みをこらえながら思った。しかし、それが自分のこととは到底思えなかった。ただもう一人の尊志が憎かった。

 翌日、目が覚めると、尊志は神王尊志の身体を持っていた。テレビを付けると、5月31日の朝のニュースをやっていた。2回目のあしたが訪れたのだ。

 すぐに小森妃樹の部屋に行って、様子を見たいと思った。だが、興奮して女体の神秘を探索中の時間だと思い出し、昼までは時間を潰した。それからコンビニで弁当を買い込み、小森妃樹の部屋を訪問した。

 もう一人の自分は、おそるおそるドアを開いて顔を見せた。小森妃樹の身体を持った自分は、ゾクッと来るほどにセクシーで可愛かった。見た瞬間に、男が反応したぐらいだ。

 こちらの反応を何も理解していないもう一人の自分は、全裸のままコンビニ弁当を食べた。その間、僕は必死に彼女を襲いたいと思う気持ちを抑えた。まだその時ではない。それは、このあと確実に訪れるのだ。そのことを、尊志は知っていた。

 しかし、これほど痛い行為なのだから、途中で逃げ出す可能性がある。尊志は、それが痛いこと、しかし逃げてはいけないことを丁寧に説明した。

 説明しているうちに、昨日の記憶が蘇ってきた。

 あれほど痛いことを、それと知らない昨日の自分に強制して良いのか……。

 「駄目だ! それは痛すぎる!」寸前になって尊志は叫ぶと、小森妃樹の部屋を飛び出して、自分の部屋に逃げ戻った。

 そして、電話でもう一人の自分に事情を詳しく説明した……。

 翌日、尊志は再び小森妃樹の部屋で目覚めた。

 そして、カレンダーを見て驚いた。それは、初めてこの部屋で目覚めた時と同じ、5月31日を指し示していた。

 テレビを付けると、確かに5月31日に尊志の部屋で見たのと同じ番組を放送していた。

 これはどういうことなのだろうか……。

 女体探検の続きを開始したが、疑問が常に頭をもたげ、身が入らなかった。

 昼頃に、もう一人の尊志がコンビニ弁当を持ってやって来た。そして、彼は記憶する通りの言葉を次々と言った。間違いない。また尊志は5月31日を生きている……。

 だが、尊志は気付いた。最初に小森妃樹の身体でもう一人の自分を見たときと、もう一人の自分の態度が微妙に違う……。

 尊志は本能的に何が起きているかを察知した。

 前回は、二人が結ばれる展開の5月31日を体験した。

 しかし、今回は、二人が結ばれない5月31日を体験中なのだ。この5月31日は、男の側では体験したが、まだ女の側では体験していない。だから、それを体験するために、この日が存在しているのだ。

 その推測は事実だった。

 まさに予想通り、「駄目だ! それは痛すぎる!」と寸前になって、もう一人の尊志は飛び出していった。

 そして、尊志は悪い予感に囚われた。

 もし、少しでも違う行動を取ると、それを別の身体で追体験するためにもう一度同じ1日が繰り返されるとしたら……。永遠に5月31日は繰り返されることになる。

 その予感は的中した。

 何回目覚めても、日付は常に5月31日だった。そもそも、人間が完全に同じ行動を取るなど、不可能な話であった。

 もちろん、良いこともあった。いくらお金を使っても、朝になれば時間が巻き戻って復活していた。自分で稼ぐことができない引きこもりには理想的な状況と言えた。

 いつか親が訪問してきて、引きこもり状態がばれるという危惧も消えた。5月31日に訪問がないことは分かっていたからだ。

 しかし、居心地は悪かった。テレビは毎日同じ番組で、すぐに飽きた。インターネットの内容もいつも同じだ。

 退屈は、死にそうなほど切実なレベルに上昇した。

 それを癒す話し相手は、もう一人の自分しかあり得なかった。それは他人の話すのが怖いからではない。前日の記憶が5月30日である人間と、無数に繰り返される5月31日である人間では、会話がまるで噛み合わなかったのだ。

 しかし、もう一人の自分と付き合うことは、けして気持ちの良いことではなかった。

 尊志は、イヤミに感じるほどに尊大だった。

 能力も無ければ意思も弱いのに、自意識だけが肥大していた。

 だから、たまには尊志どうしで喧嘩もした。

 結局、慰め合う相手はもう一人の尊志しかいないので、和解するしかなかった。相手を思いやって尊大に振る舞わないことが、たとえ自分が相手であっても重要であることが身体に叩き込まれるように納得させられた。

 そして、思いやりを学んだもう一人の自分の存在は、安心して帰れる「家」のように感じられた。

 「家」を得た尊志は、積極的に外出するようになった。外に出れば、退屈は紛れたからだ。そして、世界の広さは、尊志の想像を遥かに超えていた。毎日のように、あちこち見知らぬ街に出向いてみても、まだ行ったことのない場所の方が圧倒的大多数だったのだ。自分が世界だと思っていたものが、いかに矮小な空想に過ぎないかが痛感させられた。

 そして、小森妃樹の身体で外出した尊志は、よく男から声をかけられた。最初のうち、それは怖い体験だった。ただでさえ他人が怖いというのに、エッチな、つまり小森妃樹には激痛を伴う体験を要求して来るからだ。だが、それが何回となく繰り返されると、徐々に彼らには自分を害する気持ちなどないということが分かるようになってきた。むしろ、女性ためなら何でも奉仕しようという気持ちすら表す男達までいることが分かった。

 尊志にとって、身体を触れ合う行為さえ避けるなら、彼らに奉仕される気分は悪くなかった。路上での短い会話から始まり、喫茶店での談笑まで可能になった。もちろん、そこで知り合いになっても、翌日になれば……つまり、5月31日が再開されれば、彼らの記憶は消えていた。それでも、5月31日を繰り返す尊志には大きな救いになった。

 一方、神王尊志の身体を持った尊志の方は、あまりにやることがないので、近所の道路の掃除を始めた。その作業中に、道行く人達から受ける好意的な視線に、尊志は戸惑った。そして、真に他人から評価される人間になるということがどういうことか、尊志は理解した。

 人間は誰でも我が儘なものであり、他人に評価される人間になりたければ、誰かにとって便利な人間にならなくてはならない。自分がいかに優れているかをアピールするだけでは駄目なのだ。

 ある日、掃除中に「感心ね。お名前は何と仰るの?」と通りすがりの年配女性に声を掛けられた。しかし、尊志は本来はネットゲームのハンドル名に過ぎない神王尊志の名前をいつも通り答えるのは恥ずかしいと思った。そこで、「山田孝志です」と本名を名乗った。その瞬間、世界がぐにゃっと曲がって見えた。どこかで黒猫の悲鳴が聞こえた。

 翌朝、孝志は目覚めたときに違和感を感じた。次は、小森妃樹の部屋で目覚めるはずだったのに、目覚めたのは孝志の部屋であった。慌ててテレビを付けると、6月1日のニュースが放送されていた。

 アナウンサーが叫んでいた。「さあ、今日から6月です。5月病でへこんでいたあなたも、今日からは元気いっぱいで職場や学校に行きましょう!」

 時計を見ると、急げば1限の授業に間に合いそうだった。孝志は、反射的に教科書を鞄に放り込んだ。

(遠野秋彦・作 ©2006 TOHNO, Akihiko)

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