映画「さらば宇宙戦艦ヤマト」を再び分析の対象にしてみようという時代錯誤な企画。まずは、序論として気が付いた部分から手を付けて行こうと思います。間違い、勘違い、異論、反論などは上記メールアドレスかtestml4までお寄せ下さい。
ここでは下記の書籍に掲載されたシナリオ(撮影開始時のもので、映画内容と若干異なる)をベースにしています。
ロードショー責任編集「さらば宇宙戦艦ヤマト」VOL.2 昭和53年11月20日発行 集英社
土方の謎 §
土方の謎は、いろいろあります。
- 土方の第11艦隊とは何をする艦隊なのか
- なぜ第11艦隊には戦艦が配備されていないのか
- なぜ第11艦隊がナスカの攻撃を受けたのか
- なぜ土方は未知の敵の存在を強く主張しなかったのか
- なぜ古代は土方にヤマト艦長就任を求めたのか
- なぜ土方はヤマト艦長を引き受けたのか
- なぜ藤堂は土方の艦長就任を素直に承認したのか
- なぜ土方は、死に際に撤退ではなく都市帝国内部への突入作戦を指示したのか
しかし、ここでは以下の2つの点に絞って検討を加えてみます。
- なぜ土方はヤマト艦長を引き受けたのか
- なぜ土方が担ぎ込まれると、密航していた森雪が姿を見せるのか
ここで、便宜上さらば宇宙戦艦ヤマト再分析序論・藤堂長官は武力クーデターを準備していたという仮説で提示した「藤堂派」という派閥が存在するという前提を取ります。また、2つめの問いかけは、さらば宇宙戦艦ヤマト再分析序論・矛盾する森雪! 古代も知らない秘密の心とは!?で残した問いかけそのものです。
森雪の立場を再考する §
ここでは、森雪は藤堂派のメンバーであり、藤堂によるヤマト元乗組員挑発の意図を正しく知っていたという前提で話を始めます。
また、さらば宇宙戦艦ヤマト再分析序論・矛盾する森雪! 古代も知らない秘密の心とは!?で述べた通り、雪は古代ではなく、藤堂に見つからないためにヤマトに密航したという結論を、仮に支持することにして話を進めましょう。
さて、雪の立場から見て、土方がヤマト艦内に担ぎ込まれるという事態は想定されたものでしょうか? おそらく、そうではないでしょう。ナスカの襲撃が第11艦隊に対して行われることを、地球側は事前に予測できなかったはずです。ということは、この事態は雪から見て不意打ちであったと考えられます。
さて、ここで問題となるのは、雪が密航を取りやめるに値する理由が土方のどこにあるかです。もし、土方が無関係の軍人なら、密航を取りやめる理由にはなりません。ということは、何か雪と関係があったと考えるのが自然です。ここでは、雪と同じ「藤堂派」のメンバーであるか、あるいは敵対する派閥である「利権派」のメンバーだという可能性があり得ます。しかし、後で藤堂が土方のヤマト艦長就任をあっさり承認したことから考えて、敵対派閥とは考えにくいと言えます。
そこで、ここでは土方を藤堂派のメンバーと仮定します。
とすれば、土方は、藤堂から様々な情報を得ていたことになります。宇宙に起こった危機も、藤堂がヤマトの元乗組員を挑発して謀反させたことも知っていたことになります。
そのことは、土方が古代に謎の敵が存在することを強調したり、古代やヤマトの任務について質問していないことから妥当な推測だと思われます。
この瞬間のヤマトを襲う最大の悲劇とは何か? §
土方が担ぎ込まれた瞬間のヤマトは、公式には謀反艦です。(藤堂による承認前)
従って、正規の命令系統の下にはありません。
ヤマトの行動は、ヤマト乗組員達が自分で決定可能だったと言えます。
これは極めて危険な状態だと言えます。惑星すら破壊しかねない強力な波動砲を装備した戦艦に、あっさりと挑発に乗って謀反を起こしてしまうような人生経験不足の若者達が乗っているわけです。彼らが逆上して地球にとって重要な何かに波動砲を撃ち込むことが正しいと思い込んだら、それだけで破滅的な悲劇が起こります。
それを阻止するために、斉藤と空間騎兵隊がヤマト艦内に送り込まれていると考えられるわけですが、宇宙艦のプロではない彼らには阻止できない可能性もあり得ます。
この瞬間には、これらの未来は、まだ起こる確率が低い可能性でしかありません。少なくとも、ヤマト乗組員達は、宇宙の危機を救うために航海を始めており、地球を攻撃するという考え方は一切持っていません。
しかし、土方の出現は、この状況をひっくり返す可能性を示します。
たとえば、人事不省の土方が、藤堂の仕掛けた挑発のトリックの存在を示唆するようなうわごとを言ってしまったらどうでしょう?
正義のために立ち上がったと信じていたヤマト乗組員達の行動が、実は巧妙な藤堂の挑発で誘導されたものに過ぎないと気付いたら、ヤマトは完全に藤堂の影響下を離れて独自に行動してしまうかもしれません。その際、藤堂を含む地球防衛軍と地球を敵と見なす可能性すらあり得ます。
それは、絶対にあってはならないシチュエーションです。
土方が致命的な情報をヤマト乗組員に漏らしてしまう……というのは、この瞬間のヤマトを襲う最大の悲劇ということができます。
悲劇を回避する雪の行動 §
この悲劇を回避するためには、土方を早急にヤマト乗組員から隔離する必要があります。
藤堂派である佐渡先生と雪は、救命艇で運び込まれた土方を急いで医務室に連れ込みます。
ここで1つ番狂わせが起こります。治療中の医務室に古代が入り込んで出て行かないのです。
雪が「治療中に入室しないでください」と、古代に冷たく言い放つのは当然のことでしょう。愛する古代であればこそ、彼はこの部屋にいてはならないのです。
更に、雪は古代の注意を土方から自分に向けさせる……という行動に出ます。つまり、古代の目の前で宇宙服に着替えるために、看護服を脱ぎ、下着姿になってみせたのです。
その結果、古代の注意は雪にのみ向けられ、土方の言う言葉を聞くのは佐渡先生だけ……という理想的な状況が作り出されました。
もちろん、雪が古代に語った「一緒にいたかった」という心情は雪の本音であり、嘘ではないでしょう。しかし、その台詞をこの他のどのタイミングでもなく、このタイミングで言わねばならなかった理由は、土方の存在にあると考えるのが妥当に思えます。
まるで沖田艦長がいるようだな §
これで、第2の疑問に、1つの答(あくまで1つの……に過ぎないが)を付けることができました。
そこで、第1の疑問に取りかかりましょう。
治療を終え、目覚めた土方は佐渡先生との会話をかわします。
土方「この船にはまるで沖田艦長がいるようだな」
佐渡「うん、いるよ。みんなと一緒にな」
さて、この台詞は字義通りに解釈すると、決定的に土方の行動と矛盾します。
もし、ヤマトには沖田艦長がいるなら(生身の沖田ではないとしても)、土方が艦長になる必要はありません。
それなのに、土方はあっさりと艦長に就任します。
なぜでしょう?
この土方の言葉は、実は以下のように解釈することもできます。
この船の乗組員は、まるで沖田艦長がそこにいるかのように行動している。しかし、沖田艦長は実際にはいない。沖田の決断が必要とされる事態に陥った時、この船の乗組員は誰も沖田が下すべき決断を肩代わりしないだろう。それゆえに、謎の敵との本格的な戦闘が発生した時点で、間違いなくヤマトは敗北する
このような解釈は、ゴーランド艦隊との戦闘で見せた土方の手腕から逆算して組み立ててみたものです。他にも都市帝国出現時など、ヤマト乗組員が呆然としている時に力強く命令し、鼓舞し、行くべき道を指し示す土方は、間違いなく沖田不在の穴を埋めています。
逆に言えば、土方は佐渡先生と会話した時点で、このような未来を予見し、自分が艦長に就任しなければヤマトは若者達と共に宇宙の藻くずになると察知していたと言えます。だからこそ、生き恥をさらす……と思っていたにも関わらず、ヤマト艦長を引き受けたのだ……と考えることもできるでしょう。
ここで一段落 §
検討すべき問題はまだまだありますが、再分析序論シリーズはここでひとまず幕としたいと思います。
しかし、こうやってあらためて検討してみると、なかなか面白いですね。