2006年08月28日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編total 2632 count

ストロベリーシェイクSWEET 1 林家志弦 一迅社

Written By: 川俣 晶連絡先

 これは面白いな。

 笑える。

 ジャンル的には女性同性愛=百合マンガということになります。

 しかし、女性同性愛者のためのマンガという意味ではなく、あくまで対象読者は普通の異性愛者でしょう。

 つまり、この作品は、男女の恋愛という「常識」を前提に、双方が「恋する片思いの乙女」という落差から「笑い」を発生させていると言うわけです。

 それだけでは、「笑い」になっても「良質の笑い」にはなりません。

 この作品の可笑しさが傑出しているのは、登場人物達の行動が全て真剣だからです。

 つまり、どういうことかというと……。

2種類の分類される「笑い」 §

 「笑い」は「笑わせる行動を見て笑う」「真剣な行動が外から見ていると滑稽に見えて笑う」の2種類に分類できます。

 たとえば、ドリフの「志村、後ろ後ろ」は前者です。志村がタイミング良く後ろを見ない理由に、「笑わせる」ためという以上の理由はありません。

 一方、「笑う犬」の「小須田部長」は後者です。小須田部長が毎回とんでもない場所に行くことを命じられるのも、その命令に従って実際に行ってしまうのも、ドラマ内の必然性に従った行動に過ぎません。小須田部長は、会社のため、家族のために、無理な命令に従うのです。そして、その「ありえない」展開から「笑い」が生まれます。それと同時に、無理な命令に従わねばならないという「悲劇」という側面を背景に潜ませます。

どちらの「笑い」がより深いか? §

 この2つのどちらがより深いかといえば、おそらく後者でしょう。

 前者の「笑い」が、見る者の通常状態との落差によって笑いを得ているだけなのに対して、後者の「笑い」は、作品が内包する「悲劇」との落差によって笑いを得ていると考えられるからです。言うまでもなく、たいていの場合、後者の方がより大きな落差を持ちます。それ故に、たいていの場合、より「笑いが深い」のです。

そして、このコミックは…… §

 このコミックは、紛れもなく後者です。登場人物達がおかしな行動を取るのは、笑わせるためではなく、作品内の必然性のためです。それが「可笑しさ」を生みますが、その背景には「悲劇」がセットで付いてきます。

 更に言えば、この作品は「悲劇」を背景から前景に持ってくるという大胆な行動すら取ります。36ページで「オチ」を要求するマネージャに対して「オチ」を出さずに泣く主人公は、まさに「本来は背景に暗に示されるに過ぎなかった悲劇」を前景にに持ってきたシーンと言えるでしょう。

 「悲劇」の強調は、落差の大きさをより明確化し、笑いを深くします。

 それだけではなく、「笑い」以外の後味を読者の残すことができます。

いやー、参った参った §

 思わす、真面目なお笑い分析論に片足を突っ込みかけてしまったよ。このあたりで打ち切って逃げねば (笑。

 ちなみに、カバーを取ると裏にネタ……というのは好きですね~。

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