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2006年11月09日
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オルランドとドランバッタ

Written By: 遠野秋彦連絡先

 面白い男だな。

 この私にインタビューを求めるとは。

 しかも、オルランドの真相について知りたいだと?

 なぜ、この私に私の作り出したこの世界についてインタビューしないのだ?

 あるいは、この世界の性のエリートたるセックス貴族達について。

 そして、彼らが円熟の行きにまで高め、広める性の喜びについて。

 最後に、君はこう言うのだろう?

 その素晴らしい性の喜びとやら、言葉だけでは良く分かりません。ぜひとも実体験を……。

 そして、セックス貴族に極限まで性技を仕込まれた淫らな美女に接待されるという願望を叶えるわけだ。

 なに、違うというのか?

 本当に知りたいのは、オルランドのことだけだと?

 なるほど。おまえは気付いたわけだ。

 オルランドがけして見せようとしない「真の姿」を知りうる立場にあるのは私だけだと……。

 面白い。

 面白い奴だ。

 最初に結論を教えてやろう。

 おまえの仮説は事実だ。

 私は、オルランドの真の姿についての情報を持っている。そして、アヤを通じてそれを手に入れたというおまえの仮説も当たっている。情報の中には、当のオルランド人の大多数が知らないものすら含まれる。アヤは、オルランド皇帝の愛人ハイパーアンドロイドなので、当然国家機密レベルの情報もいくつか知っているからだ。

 さて、何から始めようか。

 なに、自己紹介から始めよというのか?

 これは面白い。このドランバッタに自己紹介を求める者は滅多にいないぞ。

 ならば語ろう。

 私はドランバッタ。

 銀河三重衝突が生み出した奇形の王。

 あの忌まわしい銀河三重衝突事件に関しては、まるで幸運の少数者が生き延びたかのような話がまかり通っているが、それは違う。事実として、オルランドが衝突回避を断念してこの宇宙から去った後、多くの地球人がこの災厄を乗り越えて人類を存続させるための努力を払ったのだ。

 その中の1つに、人類播種計画というものがあった。これは人類の遺伝子を保存し、銀河三重衝突が一段落した後に、居住できそうな惑星に人類の種を蒔くというものだ。

 そのための超大型宇宙船が何隻も建造されたという。その時点での最高のテクノロジーが惜しみなく注ぎ込まれたものだ。そして、選抜された優秀な専門技術者達がそれに乗り込み、銀河衝突のカタストロフの影響が少なそうな場所に向かった。最大で100万年単位の作業時間が見込まれたため、技術者達は人工冬眠で永い眠りについたという。その技術者達の中に、私の父母がいたのだ。

 だが、人工冬眠システムには欠陥があり、1万年後の最初の中間覚醒の時点で正常に目覚めることができたのは、父母の乗った船では、まだ夫婦ではなかった父母の二人だけだったらしい。

 そして、、二人は強い使命感を持って、計画の完遂を願った。二人は、ここで持てる遺伝子を全て人間として誕生させることを決めた。まだ通常空間には天文学的擾乱が多かったので、外部からの影響が少ない超空間繭を生成することも決めた。スタッフの数が著しく減ってエネルギーに大幅な余剰が出たからできたことではあるがな。しかし、計画を完遂するためには、二人の寿命は僅かに足りなかったのだ。そこで、二人は後継者となる子供を作ることを決めた。その結果生まれたのが、この私だ。

 二人は、この私の身体を徹底的に改造した。何より使命感の人だった二人は、まだ幼い私の身体を切り刻み、様々な特殊能力を与え、一人では歩けないほど巨大な肉の固まりに仕上げていったのだ。そして、何より私は二人の使命感を受け継いだ。

 さて、二人は遺伝子から数百万人の赤ん坊が生まれる劇的な出来事には間に合った。だが、彼らが成人し、社会を形成していく時期には既にこの世にはいなかった。私は一人で子供達を見守る必要があったのだ。

 ところが、新しく生まれた命は生き抜く意欲に乏しかった。特に、子供を作ろうという意欲が低かった。

 それは、銀河三重衝突事件を生き延びた人類に全般的に見られる傾向だった。

 そこで、私は性に対して熱心な者達を優遇するセックス貴族という制度を考えた。セックス貴族は性の模範であり、刺激剤であり、更にはこの世界の外にまで生きる喜びを伝道する存在としてこの世界に君臨した。

 いくつかの外部世界に対しては、セックス貴族のノウハウを輸出するということも行ったよ。ただ、文化水準が低い相手の場合、こちらを神と見なし、生け贄の娘を捧げて、代わりにノウハウだけでなく文明の産物を手に入れるという交換もよく行われた。

 そう。ここでおまえの目が輝いたのは正しい。

 オルランドのアヤは、そういった文化水準が低い村から生け贄として送られてきた娘だったのだ。アヤはその村によそ者として訪問し、生け贄にされたのだ。そして、この世界に来たアヤは、性奴隷としてセックス貴族達に弄ばれた挙げ句、この世界で最悪の役職と言われる私の性欲処理係に強制的に志願させられた。

 いや、おまえには真実を語ろう。それは建前上の話であって、事実は違う。

 オルランド皇帝の愛人用として特別に作られたハイパーアンドロイドのアヤは、当初、ごく普通に皇帝のベッドルームで皇帝の相手をしていだ。だが、不死の身体を持つ皇帝は、セックスのような単純な作業には既に飽きていたのだ。いかにアヤが極上の身体を持っていようとも、慣れてしまえばもうやる気も沸かない。そこで、皇帝は新しい遊びを思いついたのだ。自分の意識をアヤの身体に連動させ、アヤの体験をまるで自分の体験であるかのように感じ取るという遊びだ。いくら男としての性体験が多くとも、女の体験は違う。この刺激に皇帝は大いに気に入ったという。だが、皇帝のベッドルームにいる限り、アヤにできる体験は多くはない。そこで、アヤの体験バリエーションを増やすため、皇帝はアヤを手放すことに決めた。もちろん、アヤは皇帝のために快楽の体験を重ねる手段であって、未だに皇帝の愛人そのものだ。だが、建前上愛人をやめるということになったのだ。

 もちろん、距離が遠くなればリアルタイムで体験を味わうことはできない。そこは、体験を記録しておくことで対処するシステムだ。

 それ以来、アヤは皇帝を退屈させないために、できるだけ多種多様な快楽体験を記録するために、あえて性的に危険な場所に自ら足を踏み入れるという行動を繰り返している。

 つまり、ドランバッタ世界でアヤが取った行動とは、それなのだ。そもそもアヤが生け贄にされたのも、それが性的体験に結びつくと彼女が察知して、そうなるように周囲をし向けたからだ。更に性奴隷に身を落としたのも、セックス貴族からあらゆるやり方で弄ばれたのもアヤがそのように周囲をさりげなく誘導したのだ。そして、最終段階として私の性欲処理係への志願を強制させられたのも、実はアヤがそのような結末に至るように、周囲を巧妙に誘導したからに過ぎないのだ。

 さて、私の性欲処理係が、なぜこの世界で最悪の役職と言われるのか、その理由を説明しておくべきだろうな。

 現実問題として、この奇形の身体にも性欲がある。セックス貴族の優れた性の啓蒙の成果を見れば、私も身体が快楽を欲するのだ。だが、見ての通り、この巨大な肉の固まりで普通の女性と交わることはできない。私の男性自身は、興奮状態で女性の身体よりも大きくなる。身体より大きなものを身体の中に入れることはどうやっても無理な話だ。

 もちろん、交われなくとも愛撫はできる。だが、体格の圧倒的な差はどうにもならない。射精した精液を顔にかぶってしまい、窒息死しそうになったであるとか、私の肉ひだに身体が挟まって抜けられなくなって、その上圧迫で骨折しただの、笑うに笑えない話がいくらでもある。念のために言えば、この部屋で死んだ者はいないが、この部屋で受けた傷害が元で寿命を縮めた女達は何人もいる。

 そういう場所に、それと知った上でアヤはやって来たのだ。

 そして、ハイプであるアヤは破壊不可能な不死の存在だから、ずっと身近にいて私を喜ばせようとしてくれた。

 だが、それはあり得ないことだったのだ。

 私は疑惑を抱き、アヤに奉仕させるのではなく、アヤを強制的に犯した。細い作業腕をアヤの中に挿入し、更にそこから伸びる探査プローブはアヤの疑似血管を通って体じゅうを犯し、調べた。身体の情報を調べ尽くすと、ナノワイヤーを神経系に延ばし、更に解析が進むと超空間に刻み込まれた情報系にもダイレクトにアクセスした。

 だが、ここは重要な点だからよく理解したまえ。

 アヤは、私に犯されつつも、私を拒まなかったのだ。それどころか、そのようにして何もかも暴かれ、解体されながら、その作業を通じて私を受け止めようとしたのだ。アヤはそれほどまでに、新奇な性体験に飢えていた。言い換えれば、それほどの体験が無ければ人生に飽いた皇帝に刺激を与えられないということなのだ。

 それは、オルランドの機密情報が私に漏れることにすら優先する問題だったのだ。

 だが、それだけではないぞ。アヤの本音というものを考えたことがあるかね? しょせんは作り物に過ぎないハイプである以上、アヤの心も病んでいる。誰か他人を性的に満たし続けることで自分の存在意義を確認しなければ心の安定を保てない、それがアヤなのだ。実は、アヤというハイプは、快楽記録という皇帝の命令に乗じて、自分の不安を打ち消し続けているに過ぎないとすら言えるのだ。

 さて、アヤの話はこれぐらいにしておこうか。

 次はどのような真相を望むかね? 

 オルランド人が不死である理由か?

 それともベーダーの正体か?

 あるいはオルランドが持つ宇宙艦の正確な総数や性能かね?

 どれでも好きなものを選びたまえ。

 ああ、その件か。

 それはな……。

『終』

(遠野秋彦・作 ©2006 TOHNO, Akihiko)

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