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2007年06月07日
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未知の街の鞭

Written By: 遠野秋彦連絡先

 S氏は、この街で一番の鞭の使い手だった。

 といっても、裸の異性や、あるいは同性を鞭打って快楽を得るような趣味は持っていなかった。

 彼が鞭を振るう理由はただ1つ。彼が雇用している労働者達に仕事をさせるためだった。

 S氏が雇用する労働者達は、起伏の多いこの山岳都市の物流を支える生命線と言っても良かった。階段や大きな段差の多いこの街では、馬や牛などの4足歩行動物は移動できる範囲が限られてしまい、どうしても2足歩行の人間が運ぶ必要があったのだ。

 S氏のご先祖達はこの問題を解決するために、よく戦争を行った。戦争に勝って、戦敗国から奴隷として労働力を街に導入したのだ。

 だが、今はそのような時代ではないし、S氏は奴隷制度肯定主義者ではなかった。今や、正当な契約と高額の報酬によって、仕事の少ない地域からの労働力を受け入れていたのだ。

 しかし、そのようなS氏の好意的な気持ちは、やって来た労働者達には全く通じなかった。つまり彼らは、強制的に労働させられる奴隷達のように、隙さえ見せれば怠けようとしたのだ。

 これに対して、S氏は契約上行使が認められた懲罰行為の1つである鞭をもって対処した。常に鞭を鳴らし、あまりにも著しい労働のサボタージュ行為が有れば、見せしめに直接鞭打ちもした。

 そうやっているうちに、S氏はすっかり鞭の使い手として町中で認められるようになったのだ。

 しかし、S氏はまったく嬉しくはなかった。S氏が望んだのは、本当の意味での経営の仕事に没頭することであり、現場監督のように労働の現場に張り付いて鞭を振るうことではなかったのだ。

 かといって、他人に鞭を任せることはできなかった。鞭を振るう者も、やはり怠けてしまう可能性があったからだ。S氏は、一度他人に任せて、その事実に気付くと、もはや他人を信用できなくなってしまった。

 念のために言えば、S氏のこのような考え方は正当ではない。S氏のところに来た労働者達は、貧しい地方から「要らない者達」の烙印を押され、口減らしのために追い出された者達であって、勤労意欲が高いわけがない。更に言えば、労働者にやる気を起こさせる方法はいくらでもあるが、S氏は鞭以外の方法を考えようともしなかった。また、他人を信用しないですぐ鞭を振るうS氏を見て、周囲の人間達が自然とS氏を敬遠したのも事実である。更に言えば、S氏が鞭を振るうとき、そこにS氏自身のストレス解消という側面があったことも否定できない。ストレスが高ぶると、さしたる問題も起こしていない労働者を鞭打ったこともあるのだ。

 だが、そういったことにS氏は気付くことはなかった。

 そのような日々が続いたある日、S氏は未知の街に凄い鞭があると聞いた。

 その鞭は、人間が手に持たずとも、自分で動くという。そして、怠けている者がいると鞭で叩いて仕事をさせるというのだ。それは魔力によって自動的に機能し、けして怠けることはないという。

 S氏は、どうしてもその鞭が欲しくなった。これこそが、S氏が求めた理想の鞭だと思ったのだ。

 しかし、何しろ未知の街である。どこにあるのかも分からない。

 だが、1つだけS氏には有利な条件があった。鞭の使い手として近隣にまで名前が届いていていたS氏は、各地の鞭愛好家と親交があり、彼らを通して情報収集を行うことができたのだ。

 鞭愛好家の中には、未知の街の鞭の噂を聞いたことがある者も多く、そのうちの一部は具体的な場所のヒントまで持っていた。

 S氏は断片的なヒントを様々な鞭愛好家から集め、ついに未知の街の位置を特定した。

 そして、なぜ未知の街が「未知」と言われていたのか、その理由も分かった。それは異端宗教の末裔が住む山岳都市であり、滅ぼされることを恐れた彼らは山岳都市の位置が知れ渡らないように注意深く情報をコントロールしていたからだった。

 それは、未知の街の鞭を駆動する魔法が、異端宗教の邪法であることを意味したが、S氏は全く気にしなかった。S氏にとって、労働者に仕事をさせる鞭は、常に良い鞭だったのである。

 さて、未知の街はS氏の住む街からさほど遠くはないことが分かったので、S氏は自ら出向くことにした。その間、労働者達は怠けるだろう……と思ったが、そこは我慢することにした。

 未知の街に到着したS氏は、さっそく鞭の持ち主に会いに行った。

 信じる宗教は違っていたが、S氏と持ち主はいずれも鞭愛好家であり、すぐに意気投合した。

 そして、彼は快く魔法の鞭をS氏に譲った。

 彼は言った。

 怠け癖のある妻に仕事をさせるために、本家の倉から古い魔法の鞭を出してきて使ったが、自分で打つ方が面白いと分かったので魔法の鞭はもう要らない……と。

 ちなみに、自分の快楽のために妻を鞭打ち続けたこの男は、やがで妻によって少しずつ毒を盛られて身体が弱って死んでいくのだが、それは余談である。

 未知の街の鞭を手に入れたS氏は、さっそく自分の街に戻ると、怠けきった労働者達に鞭を向けてみた。

 すると、鞭はS氏の手から飛び出し、怠ける労働者達に鞭を打ち鳴らして威嚇し、それでも仕事に戻らない者には容赦なく打ち据えた。

 S氏は思わず言った。

 素晴らしい! 怠けている者がいると鞭で叩いて仕事をさせるという効能は本当だったのだ! これなら、安心して経営の仕事に没頭できるぞ!

 しかし、未知の街の鞭を手に入れる長旅で疲れたS氏は、その前に一休みしようと休憩用のチェアに腰を掛けた。

 心地よい疲労感がS氏を包んだ。そのまま、疲れが出てS氏はうとうととまどろんだ。

 そして、激しい痛みで椅子から飛び上がった。

 未知の街の鞭が、S氏を打ったのだ。

 S氏は恐ろしくなって逃げ出した。

 だが、鞭は逃げるS氏を追って更に打ってきた。

 なぜだ! なぜ私を打つのだ!

 S氏はそう叫んだ。

 S氏は、やはり異端宗教の邪法はダメだと思った。そんなものを信じた自分を呪った。

 だがその時、荷物を運んでいた労働者達がその光景を見て口々に言った。

 居眠りこいて怠けていた旦那様が、魔法の鞭に打たれてらぁ。

(遠野秋彦・作 ©2007 TOHNO, Akihiko)

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