2007年10月29日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編total 2578 count

舞姫(テレプシコーラ) 8 山岸凉子 メディアファクトリー

Written By: 川俣 晶連絡先

 この作品の面白いところは、現実世界の汚い部分がきちんと描き込まれているところだと思います。

 しかし、途中から別の面白さが割り込んできました。

 表現者と演技者の相違です。

 千花と六花の姉妹が持つ差、あるいは六花とライバル達の持つ差とは、実は単純に「上手い/下手」という関係ではありません。

 古典的なバレエドラマの基本骨格が「プリマドンナを目指す」と位置づけられるのだとすれば、実はこの作品の大多数の登場人物はその路線を目指しています。そのために、正確な技術や優れた技を磨いています。これが、ここでいう演技者です。彼女らは、演技者の最高峰つまりプリマドンナを目指します。ここで最終的な目標とされるのは、舞台において最も中心的な役割を担って目立つことです。

 それに対して、振り付けの世界に足を踏み入れてしまった六花が持つ最終目的は違います。彼女が目指すのは、表現すべき題材をいかにして演技として結実させるという地平です。これが、ここでいう表現者です。表現者という立場は、表現という目的を達成するためにあらゆる手段を動員しうる可能性を持ちます。その中には、自分ではなく他人の身体を使って表現するという手段まで含まれます。だから、決定的に相容れないのです。

 さて、この差は極めて重要です。

 なぜなら、舞台とは本質的に表現のために存在するものであり、プリマドンナを目立たせるために存在するわけではないからです。ですから、単純に与えられた通りに演技する者だけでは、どうしても表現に限界が生じます。この限界を突破するには、舞台に立つ者が演出家や振り付け師の意図を正しく理解し、更にそれらの意図を改善して行くことができる人材が必要とされます。そのような人材は、多少技能が劣っていても、ずっと素晴らしい舞台を作り上げることができるでしょう。

 それゆえに、六花という存在は非常に得難い存在として作品中に存在するわけです。

 彼女の成長という可能性に賭けるために、あえて水準が高すぎる役柄に抜擢するという冒険を行う価値もあるわけです。

 実に面白い作品ですね。

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