あるところに、神様がいました。
神様は天地を創造し、人間も創造しました。
この人間達は善良であり、神様に忠実でした。禁断の果実を食べることもなければ、ソドムの快楽にも浸らないし、バベルの塔も作りません。
そこで神様は、人間達にご褒美を与えることにしました。
何を与えれば良いか考えていた神様は、人間達が金を貴重なものとしてやり取りしていることに気付きました。
そこで、神様は金でできた魚、金魚を与えることを思い付きました。金魚は普通のエサを食べて金の糞をします。金なので臭くも汚くもありません。しかも、金魚は子供を作って数を増やします。人間達は、金魚を増やせばいくらでも金が手に入るという仕掛けです。
神様は、この素晴らしい計画を自画自賛し、さっそく金魚を人間達に与えました。
金魚を与えられた人間達は大喜びで、競い合うように金魚を育て始めました。
人間達は、金さえあればいくらでも欲しい物が手に入り、もう質素倹約は必要ないと思いました。
ところが、いざ人間達が金の糞を抱えて買い物に行くと、買うべき品物がないという状況に直面しました。そうです。いくら金が増えても、商品の生産量が増えない以上、欲しいものを欲しいだけ買うことはできないのです。
そして次に起こったのは、物価上昇でした。それまでと比べて、品物を手に入れるために必要な金の量は何倍にも膨れあがりました。
人間達は、必死に金魚にエサを与えてより以上の金を生産させて対処するしかありませんでした。
しかし、金の必要量の増加は止まりません。ふと気付くと、人間達は自分たちの生活を切り詰めて、膨大な金魚のエサ代を負担していることに気付きました。金魚のせいで、生活が貧しくなったのです。
ようやく、人間達は金魚が豊かさをもたらさないことに気付きました。
そして、人間達は徒党を組んで金魚を与えた神を呪う集会を開くようになりました。
それを見た神様は、恩を仇で返すような人間に神の裁きを与えて滅ぼしました。そして、今度こそは神への感謝の気持ちを忘れない新しい人間を生み出そうと考えました。前回もそう思ったことを、神は既に忘れていました。
(遠野秋彦・作 ©2008 TOHNO, Akihiko)
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