15個の鉄壁の防御を持つ男がいた。
人々は、経緯と畏怖を込めて、その完璧な防御を「15の守り」と称していた。
その男が、それほど完璧な防御を持つことは、彼の立場がもたらした必然といえた。なぜなら、彼は多民族国家を束ねる大統領だったからだ。それは、この男にとって、周囲のすべてが敵である可能性を意味する。
彼とは違う民族の者達は、異民族である男が国家の頂点に立つことが気に入らない者が多い。
ならば同民族なら安心かと言えばそうとも言えない。自民族に利益を誘導せず、全民族を公平に扱おうとする男の態度への不満は多かったのだ。
どの民族の者を相手にする場合にも、男を暗殺しようとする刺客の可能性を排除できなかったのである。
さて、「15の守り」には、当然殴りかかってくる暴漢はもちろん、刃物や銃器による奇襲に対する完全な防御が含まれる。このような防御は、単純な暴力による暗殺を防ぐに十分な力があった。
しかし、客観的に見て、これは本当に暗殺を生業とする者達からすれば大した問題ではない。気づかれないように少しずつ毒物を食事に混ぜるであるとか、家族親類を抱き込んで油断したところを襲わせるであるとか、やり方はいくらでもあった。嫌がらせで心理的に追い詰めるのも良い作戦といえる。心理的に追い詰めて何かミスを犯させることができれば、小さなミスでもそれをテコにいくらでも失脚をねらえるのだ。
だが、「15の守り」はそれらにも完全に対応していた。完全な毒物の検出と防御。家族親類であろうとも手を抜かない守備体制。常に自信とゆとりを失わない心理防御。あらゆる間接的な攻撃からも、完全な防御を達成していた。
更に「15の守り」は戦争からも自国を守り、国境紛争では自国の権益を守り抜いた。それらの実績は、男の支持層を拡大した。まわり全部が敵ばかりであると同時に、男には支持者も多かったのだ。
男は、戦勝祝いのTV番組で演説した。
「私の『15の守り』は、大統領としての私の地位と国家のすべてを守る完全なる盾なのです!」
そのとき、TVカメラに偽装した銃から発射された凶弾が男の胸を貫いた。
だが、銃弾は男の体を通過して、男は何事もなかったかのように演説を続けていた。
つまり、「15の守り」が直前に大統領本人と立体映像をすり替えたのであった。
まさに、完璧な防御であった。
人々は、男と「15の守り」を称えた。
しかし、男が権力を失う日が間もなく訪れた。けして、彼が暗殺されたわけではない。「15の守り」は完璧だったのだ。権力を失うとは、要するに大統領の任期が切れただけの話であった。
男は、任期最後の日に大統領専用の演壇で最後の演説を行い、そして拍手で迎えられながらそこから降りた。
次の瞬間、銃弾が男の胸を貫いた。
一同は騒然となった。
「暗殺犯はどこにいる!」
「『15の守り』は機能していないのか!」
次の瞬間、演壇に元気な大統領の姿が出現した。
「そうか。こっちが本物か!」
「さすが『15の守り』だ。倒れたのは立体映像なのか!」
それを受けて、演壇上の男は自信たっぷりに断言した。
「私の『15の守り』は、大統領としての私の地位と国家のすべてを守る完全なる盾なのです! 私の名を騙り、大統領の地位を放棄するような発言をしたその男は、『15の守り』によって排除されました。これからも、私は永遠に大統領であり続けます!」
一同は唖然として演壇上の男を見上げた。今日で任期が切れるというのに、この男は何を言っているのかと。
「おい、この死体は本物だぞ。今しゃべっている方が立体映像だ!」と誰かが叫んだ。
『15の守り』は大統領本人を抹殺することで、彼の大統領としての地位を守ったのであった。
『15の守り』はまさに最強かつ完璧であった。
(遠野秋彦・作 ©2008 TOHNO, Akihiko)
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