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2009年08月03日
トーノZEROゲームプレイ日記ドラゴンクエストIX 星空の守り人total 16812 count

大きな物語の失墜とサンディが嫌われねばならない決定的な理由

Written By: トーノZERO連絡先

 以下はネタバレ注意です。

 少なくともアギロホイッスルを入手していない人は回れ右!

 ああ。やっと分かりましたよ。

 ドラクエ9にサンディが存在しなければならない理由。

 サンディが果たすべき決定的な役割。

 そして、サンディの何が良いのかということ。

 最も重要なことは、なぜサンディは嫌われるのか、という決定的な理由です。

前置き §

 以下の内容は間違っていると思って読むべきでしょう。安易に内容を信じ込んではいけません。

大きな物語の失墜 §

 ドラクエ9の物語の主テーマはおそらく「大きな物語の失墜」と「大きな物語」の代わりに価値を持つ価値観の提示です。

 極めていい加減かつ不正確にまとめると。「大きな物語」とは、国家や社会のような大きな問題を解決すれば世の中が良くなるという考え方であり、「大きな物語の失墜」とは大きな問題を解決しても世の中は良くならないと分かってしまった状態を意味します。

 たとえば世の中が良くないのは共産主義のせいであり、それを打倒すれば世の中は良くなる、というのが「大きな物語」の一例です。しかし、ソ連が崩壊しても世の中は良くなりませんでした。それにより「大きな物語」の価値が信用を失うことが、「大きな物語の失墜」の一例です。

 従って、「大きな物語」とは「明らかに有効ではなく信じてはいけないもの」だと言えます。しかし、失墜以前の段階では「大きな物語」は、多くの人を魅了して信じさせてしまう麻薬的な存在であると位置づけられます。

 このように考えたとき、その麻薬的な存在に対して100%の耐性を発揮するキャラはある意味で物語に対して主導的な立場を取ることができます。それがサンディです。サンディは自己中心的な人物に見えますが、実はそれと表裏一体として「大きな物語」を一切受け付けないという特徴を持ちます。

 その結果として得られるものは決定的です。

 実は、ドラクエ9に登場する大多数の人たち(女神や天使等を含む)は主人公に要求をするばかりで、本当の意味で親身になって主人公のことを考えてはくれません。彼らは様々な「大きな物語」に心を奪われているからです。リッカですら、伝説の宿王という「大きな物語」の一種に心の一部が拘束されています。

 しかし、ただ1人、サンディだけは本当に主人公のことを親身に考えています。うざいことも喋るし、逃げ出してしまうこともありますが、それでも実質的に彼女だけです。

 であるから、主人公がサンディに会いたいと願って「女神の果実」を口にするのはある意味で当然です。

ドラクエ9の物語 §

 そのような観点で見れば、ドラクエ9の物語の主要なストーリーラインは、「大きな物語の失墜」そのものです。たとえば、天使が人間達を守護して果実を作るという行為が、天使を救済するというのが「大きな物語」です。しかし、実際には果実を作るという行為はそのような天使の問題を解決する手段ではないことが途中で明らかになってしまいます。これはまさに「大きな物語の失墜」です。

 しかも、「真の大きな物語」は主人公も救済しません。「真の大きな物語」とは、人間を滅ぼそうとする神と、それを止めようとするセレシアの物語です。そして、この物語は最終的にセレシアと神の世界の復活という形でハッピーエンドを迎えます。ではそれによって主人公が報われたのかといえば、そうではありません。ラスボスと戦うために天使としての立場すら捨てて人間になった主人公は、セレシアから「人間として人間の世界を守る守護者になれ」と命じられてしまいます。そして、天使としての力の大多数も失い、アギロやサンディの姿も見えなくなります。「真の大きな物語」の成就は、天使の世界から落下して天使の輪や羽を失ったという主人公の問題を何も解決してくれないどころか、問題状況を固定的に強要されてしまいます。

 しかし、主人公はそれで終わりません。「真の大きな物語」のハッピーエンドで世界は終わらず、主人公も動き続けます。その結果として奇妙にねじれた事態が起ります。この物語の主要部分において、「女神の果実」を食べた者達はみな善意が暴走して災厄をもたらしています。つまり、「真の大きな物語」において、これは神に捧げられるべきものであり、けして人が口にしてはいけないものです。しかし、主人公はこれを食します。それによって願ったのは女神に与えられた仕事を遂行する便宜でも、いかなる社会正義や社会貢献でもなく、単なる個人的な願いとしてのサンディとの再会です。

 つまり、「女神の果実」を食した時点で、「真の大きな物語」の成就に最も貢献したはずの主人公は、その「真の大きな物語」の枠組みそのものを破壊してしまいます。

大きな物語のゾンビ化 §

 さて。「大きな物語の失墜」はおおむね冷戦終結のあたりに決定的に進行したと考えられます。ところが、ネット上では「大きな物語の復権」が行われています。たとえば、良くないことは全て中国や韓国の仕業であり、日本が軍事力を持って毅然とした態度を示せば世の中は良くなる、といった主張を支持している人は珍しくありません。もちろん、それは幻想であり、それによって世の中が良くなるわけがありませんし、そう主張している彼らが抱える問題が解決されることもまずあり得ないでしょう。

 しかし、彼らには「大きな物語」が必要なのです。彼らの典型的なパターンは、「優れた賢い僕」という自己認識を維持しなければ辛い現実を生きられないが、実際には社会からそのような評価を得られるほど優秀ではない、というものです。従って、そのギャップを埋めるためには、「大きな物語」が必要とされます。彼らの賢さが社会から承認されないのは、「大きな物語」が未達成であるからだと位置づけられます。少なくとも、それが本当に達成されるか否かに関係なく、達成を通じて問題が解決されるかもしれない、という認識は生きる希望になります。

 従って、今時のネットの世界では、失墜したはずの「大きな物語」はゾンビとなって蘇っています。

 ところが、サンディは「大きな物語」を100%受け付けません。彼らの希望の最後のよりどころを、サンディはあっさりと全否定してしまいます。従って、彼らは自らの拠り所を全否定されたという決定的な理由により、サンディを受容できません。むしろ、自分を支える欺瞞を暴露されるリスクを恐れて、彼女を徹底的に叩かねばなりませんし、ドラクエ9というゲームも叩かねばなりません。

 一方で、「大きな物語」に何ら説得力を感じない人たちは、ドラクエ9を「世の中のあり方を嘘をつかないで誠実に描いている」と好意的に受け止める可能性があります。そして、おそらく社会の中で彼らは多数派です。従って、ドラクエ9はマスのプレイヤー層からの支持を受け、300万本規模の売り上げも容易に達成できます。

「めでたしめでたし」から始まる物語 §

 よくあるおとぎ話の結末は以下のようなものです。

  • こうして2人はいつまでも幸せに暮しました。めでたしめでたし。

 しかし、実際には艱難辛苦を乗り越えて結ばれた2人に、それ以後何の事件も起らず、平穏無事に幸せな日々だけが続くことはあり得ません。

 日々の生活が続けば、夫婦げんかもあるだろうし、子供ができれば生活は劇的に変化していきます。近所や親戚との付き合いもあるだろうし、浮気の誘惑もあるでしょう。お金に困ることもあるかもしれません。

 つまり、「本当の物語」はむしろ「めでたしめでたし」のあとに存在すると言えます。

 このような「本当の物語」の存在は、RPGの世界でも優れた作品であれば示唆されることが珍しくありません。たとえば、ドラクエ3のエンディングでは生まれ故郷のアリアハンに帰れなくなった主人公が描かれ、その世界でこれから生きていかねばならない「新しい人生」が示唆されて終わります。

 しかし、「本当の物語」を具体的に描いた作品はもしかしたら極めて希少かも知れません。つまりそれは「ラスボス撃破後の世界」になるからです。もちろん、ラスボス撃破後に挑戦できるシナリオや、裏ボスが存在するゲームは珍しくありません。しかし、たいていの場合それは「ラスボス撃破後の世界」を描いているわけではなく、「1回ラスボスを撃破したフラグが立った状態」でのみ可能な「ラスボス撃破前の世界の出来事」でしかありません。たとえば、ドラクエ5ではラスボスであるミルドラースを倒せば裏ボスであるエスタークと戦えますが、エスタークと戦っている瞬間、ミルドラースは生存しています。

 もちろん、ラスボスを倒したあとで世界が続くRPGがないわけではありません。たとえば、RPGの元祖の1つであるWizardry #1 - Proving Grounds of the Mad Overlord (狂王の試練場)は、ダンジョン最下層に「在室」しているワードナを倒すと、勲章が得られるだけで、そのままゲームを続きます。しかも、再度ワードナを再訪問すればそこに生きたワードナが出てきます。(実際は版によっていろいろあるらしいが)

 しかし、このような例はおそらく希少でしょう。

 (この他にネットゲームでは、ラスボスを倒しても世界が終わらないケースは多いと考えられます。まだそこまで進捗していないプレイヤーがそれ以後遊べなくなってしまうからです)

 さて、ここで画期的であることは、まさにドラクエ9はエンディングのスタッフロールが終わった後、当たり前のように行動でき、そのままエンカウントして戦闘できることでしょう。

 しかも、問題を抱えた個人や地の底で虎視眈々と何かを狙う魔物どもも消えたわけではありません。

 つまり、「めでたしめでたし」から始まる物語がそこにあります。

 そして、この物語は、人間を救う女神セレシアや、人間を滅ぼそうとする堕天使エルギオスのような分かりやすい大きな枠組みはもうありません。いや、セレシアやエルギオスの物語にはそもそも「大きな枠組み」など無く、それらは単なる彼らの個人的行動に過ぎません。

 残されているのは、多種多様な人々や、彼らが抱える様々な問題に対して、主人公とプレイヤーがいかにして向き合うのか、という態度の問題だけです。

 それが「めでたしめでたし」から始まる物語の本質であり、ドラクエ9というゲームはまさにそれを体現します。

 そして、ドラクエ9の結論は、誰かのための奔走する人生こそが、実は充実した価値ある人生だというものでしょう。それは、世界を救った勇者になるよりも、ずっと本当の意味で価値がある人生なのでしょう。

 同時にパートナーに値するのは「巨悪を倒せば世界もキミも救われてヒーローになれる」と騙す嘘つきではなく、個人としての主人公を気遣うサンディのようなタイプです。

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