あるところに、1人の少年がいました。
彼の村は、竜に襲われていましたが、旅のナイトが通りかかって、退治してくれました。
少年は感激して自分もナイトになりたいと思いました。
しかし、少年はまだ若すぎました。
「もっと成長したらナイト道を極めると良いじゃろう」
「そのときは教えてくれますか?」
「それじゃ無理じゃろうて。わしの命は長くはない」
その言葉に嘘はなく、少年が1人で村を旅立てる頃にはそのナイトの訃報も聞こえてきました。
少年は生きている他のナイトを必死に捜して弟子入りを求めました。
「お願いします。ナイト道を身につけたいんです」
「やめとけ、世の中にはもっと面白いことがある。酒とか女とか」
「僕にはナイト道しかありません!」
「やれやれ、好きにしろ」
少年は弟子入りは認められませんでしたが、ナイトの身の回りの世話を始めました。洗濯、掃除、買い物、食事も作り、ナイトの代理で使いっ走りもこなしました。
やっとナイトは根負けして言いました。
「分かった。ナイト道を見せてやる。面倒だが付いてこい」
「やった!」
しかし、ナイトが行った先は暗い夜道でした。
「これがナイト道だ」
「師匠、暗くて何も見えません」
「馬鹿者、ナイトとは夜のこと。暗くて見えないのは当たり前。そしてナイト道とは夜道のことだ」
「し、師匠! もしかして、それってただのダジャレ?」
「アホか! ナイトたるもの、他人が道を教えてくれると思うな」
「ええ!?」
「つまりこの夜道がナイト道だ」
「どういう意味ですか?」
「先が見えないのは誰でも同じこと。しかし、見えるように振る舞い、人々を自ら照らしてみせるのがナイトというものだ」
「しかし、仕える主君が行き先を命令してくれるのではありませんか?」
「そうだ。命令してくれるが目的地を言うだけだ。途中の道は教えてくれない。それは自分で切り開かねばならない」
「そんな、話が違います!」
「ナイトは嘘つきだからな」
「ええ!? 忠義を尽くすのがナイトなのでは?」
「ああ。ナイトが主君への忠義を尽くすこと、すなわち一般大衆に嘘を付くことなのさ」
「僕はどうしたらいいんですか?」
「この暗い夜道、自分で道を探して歩いていけるならナイトにもなれるだろう。しかし、誰かに教えてもらえないと歩けないならナイト志望なんてやめちまえ」
しかし、少年は歩き出して、ついに命じられた買い物を成し遂げました。
晴れて少年はナイトの愛弟子となり、晩年には国王から信頼される母国随一のナイトにまで成り上がったといいます
愛子弟ナイト伝説です。
もっとも、それが本当か嘘かは誰も知りません。
(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)