「というわけで、あまり読まれてないね。神成さんの話」
「うん。まあそんなものだろう」
「達観しているね」
「まずみんな大切なものは分かっていると思い込んで読まないし、読んでも理解できないだろう」
「それも、相当な言い方だね」
「そんな話を聞きに来たのかい?」
「いや、聞きたいのはね。なぜ神成さんの話を書いたのか、その理由だ」
「理由ねえ」
「積極的にオタクの問題に関わりたいのか、それともスルーしたいのか良く分からないよ」
「うん、いい質問だ」
「答えはどうなんだい?」
「まず、基本的にはスルーしたいと思っている。というか、関わってもアホらしいだけ。関わりたくはない。以上だ」
「でも、神成さんの話を書いたということは?」
「関わりなくないけど、関わりたくないタイプの人間が周囲にけっこういて、そういう人間がこちらと関わろうとするからだ」
「つまり、コミュニケーションは双方向ということだね」
「こちらの意思とは関係なく、向こうが関わりたいと思えば関わってしまうし、そもそも相手が何者かは最初からは分からない。関わってしまった後で、スルーしたいタイプだと気付くこともある」
「つまり?」
「オタクやネットの子供達との関わりを断ち切れないわけだ。私だけの一存ではね」
「なら、完全撤退はできないの? ネットにメッセージを送る機能などが公開されているから、関わりたくないタイプのメッセージまで来るのでしょう?」
「理由は簡単だ。関わる価値があると思う大人のメッセージも来るからだ」
「なるほど。見えてきたよ。ネットから撤退は今のところやりたい状況ではないわけだね?」
「うん。今のところ、撤退するメリットよりもデメリットの方が大きそうだから、まだネット上にオータムマガジンという拠点がある」
「でも、君が期待しているメッセージは少なくとも対人関係に最低限の配慮をしているものだけだ」
「相手の書いた文章の意図を必死になって解釈しないと分からないのは願い下げだ。もちろん、連絡先が書いていなければ問い合わせることもできないしね」
「書いてあったら問い合わせるの?」
「まず、そういう意味不明の文章を書く奴は返送先も書かないからNGだよ」
「そういえば言ってたよね。きちんと意味が分かる文章を書く人ほど連絡先もきちんと書いてくるって」
「そうだ。それがおそらく大人ということなんだろう」
「ならば連絡先を必須にしたら良いのじゃないか?」
「嘘アドレスを書くだけだろう。問い合わせ不可能の連絡先を書かれても意味はないが、そういう対処を勧める奴までいるし、おそらく解決にならん」
「それで?」
「システム的な話をすれば、一応対処は考えているが、ここから先は不確定要素も大きいのでまだ語れない」
「なるほど」
「話を戻そうか」
「なぜ神成さんの話を書くのか。つまり、なぜ子供に関わるのか」
「既に自発的な話ではないことは説明したね」
「うん。でも、返送先を書かないメッセージなら常に一方的で、対処を考える必要はないのだろ?」
「返送できない以上、考えても無意味だからね。でも、自分を大人と思い込んだ子供が、メッセージをネットで送ってくる相手だけだと思うなよ」
「つまり?」
「ほら、ネット上で自分をプロだと思い込んだ素人とか珍しくもないんだぜ。そういうのが得意げに自分をアピールしに私の前に来ることは珍しくもないし、その場合はプロ気取りで実名を明かして連絡先も明かす。というか、目の前にいるから返事をすればすぐ相手に届く」
「なるほど」
「そういう場合に、どう対処すべきかもポリシーを確定する必要があったわけだ」
「ポリシーね」
「うん。相手に対して、言っていることが幼稚すぎますよ、というのは簡単だけど、どういう問題が起きるか分からない。というか、そもそも言葉が通じない可能性がある」
「逆ギレしてこちらが悪者にされかねない」
「あるい意味でそれは正解だ。100%清廉潔白な人間などこの世にはいないし、こちらもその条件に当てはまる普通の人間だ」
「じゃ、悪者にされていいの?」
「いやだね。面倒なだけだ。ただでさえ、ネットには叩ける埃を持った相手を待ちかまえている大勢の正義の味方がいるぐらいだ。で、人間誰しも埃の1つぐらいはあるから誰でも叩ける。失敗のない人間など存在しない」
「じゃあどうするの?」
「対処するための基準を持たねば状況に対処できなくなってきた、ということさ。目の前に相手がいるとき、咄嗟に判断ができないと間に合わないからね」
「それが神成さん……」
「そうだ」
「えーと、それじゃまとめるよ。君は、子供に関わる気はないのだね?」
「正確には、身体は大人なのに心は子供という連中だ」
「でも、彼らの方から関わってくる場合がある」
「仲間と勘違いしてね」
「しかし、君は撤退する気は今のところ無い」
「神成さんは空き地の隣に家を構えてしまったのだ。それは前提として出発しなければならいよ」
「ならば君の考える理想の結末とはなんだい?」
「子供達が成長して大人になってくれることさ」
「もっと詳しく言えば?」
「人間社会は迷惑をかけ、掛けられて成立している。だから、ボールが盆栽を壊すことは実は許容の範囲だ」
「では、なぜ神成さんは怒る?」
「子供達がごめんなさいと言わないで、一見正しそうな理屈をこねて逃げようとするからだろう。迷惑をかけたら、名乗り出て誠意を持って謝る必要がある。どれほど正しい理屈を言っても、そういう手間から開放されるわけではない。まして逃げるために咄嗟にでっちあげた理屈は見苦しいだけだ」
「これが結論かな?」
「そんな感じだね」
「じゃあ、今日はこれでお開きだ」
「やっと終わったか」
「でも、他にも質問が出てきたからそれはまた次回に」
「なに!?」
「いやー、人の心をぐさぐさと突くのは面白いな」
「鬼、悪魔!」
(次回へ続く)