2010年05月02日
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宮崎駿とはアニメ界ではなく映画界に属する人物であるか

Written By: トーノZERO連絡先

 実は、映画をかなり見るようになって、以下のような解釈は誤りだと気づきました。

  • 宮崎駿は普通のアニメが使わないようなモチーフを生かして成功している

 実際に洋画を多く見ていると、宮崎アニメのモチーフがそれほど珍しくないことが分かってきました。だから、映画館の常連からはもしかしたら以下のように見えるかもしれません。

  • 宮崎駿は映画がよく使うようなモチーフを採用しているが、卓越した演出力で成功している

 つまり、宮崎アニメは突飛ではないし、周囲から浮いている訳でもありません。

 以下、個別の問題を軽く書いてみます。

未来より過去 §

 まず、今年に入ってから見た洋画の一覧です。後半は設定年代です。

  • ・ウルフマン 1891
  • ・アリス・イン・ワンダーランド (帆船時代。おそらく19世紀)
  • ・シャッターアイランド 1950年代
  • ・NINE 年代設定不詳。おそらく現代
  • ・ダレン・シャン 年代設定不詳。おそらく現代
  • ・シャーロック・ホームズ 1891
  • ・コララインとボタンの魔女 年代設定不詳。おそらく現代
  • ・アバター 未来

 未来1、現代3、過去4ということで、CG技術が進化してそれを使って描こうとしているのは未来よりも過去らしいといえます。これは、ジェット時代にあえてプロペラ機を描く紅の豚や、蒸気機関車が走るような町並みが出てくるハウルの動く城などと同じような傾向です。

戦うヒロイン §

 「戦うヒロイン」は洋画のトレンドのようで、これは宮崎アニメと同じ方向性です。しかし、洋画の「戦うヒロイン」は、何の変哲もない美少女が戦うというよりも、戦える根拠を持ったヒロインが主流であるように思えます。

 ここで、宮崎アニメを見ると実はヒロイン像が明快に「もののけ姫」で切り替わっていることに気づかされます。この映画で、ナウシカ型の「何の変哲もない美少女が戦う」というモチーフは序盤でカヤを連れて行かないという形で明快に否定され、その代わりにメインとなるヒロインは、いきなり山犬を引き連れて血まみれの顔を見せるサンとなります。つまり、明快に日本型の戦う美少女から、欧米型の戦う美少女への転換を指向しています。

 従って、ただの女の子でしかない千尋は悪の総本山として決戦を予感させたゼニーバの居場所に行っても戦うことはなく、ソフィーは敗北して帰還した軍艦を傍観者として見守るだけの存在になります。

 この傾向は、日本型の戦う美少女を描くカリスマとしての宮崎駿を期待すると肩すかしですが、おそらく洋画の常識からすれば当たり前のことでしかありません。

俳優 §

 宮崎アニメが「映画」であるとすると、必然的に最終的に目指す演技はアニメよりも映画です。従って、アニメ声優よりも、映画俳優の方がより作品の目指す場所に似合っていることになります。

 ちなみに、洋画の吹き替えを前提にすると、声優による演技もあり得るように思えますが、これは明らかに声優の世界でも傍流になってしまいます。候補となる人数がそれほど多くないという以上に、やはり俳優の方がインパクトで勝ってしまう面があるのかもしれません。

 従って、社会的な評価を得て予算も潤沢になった宮崎アニメがフィーチャーするのは、いかなるアイドル声優でもなく、森繁久彌や倍賞千恵子のような映画俳優ということになります。映画界にあっては極めて順当な人選であり、これといって奇異ではありません。

まとめ §

 というわけで、ここに来てハッと驚いたのは、宮崎アニメが浮いていない、という状況です。ウルフマンを見にいって、実は過去の話だと知った瞬間に「またか!」と思い、それが典型的なモチーフなのだと気づきました。だから、宮崎アニメにも古いモチーフがよく出てきますが、これが周囲から浮いていないと思えてしまいます。

 それからもう1つ。映画館にはある種の緊張感があります。タイトルにもよるものの、見に来る客も真剣勝負という空気を感じることもあります。

 つまり、映画館という「場」は一種の真剣勝負の場であり、宮崎アニメもその真剣勝負に参戦していることになります。(そういう意味では、銀魂もクレヨンしんちゃんもコナンも劇場版は参戦していることになるが。いや、まじめな話で)

 その空気は、コミケやワンフェスのようなオタクのイベントにある「ぬるい空気」とは異質であり、おそらく短期決戦型です。上映時間がせいぜい2時間程度である以上、それほど長くは続きません。

 その空気を味わっているのが、広い意味での映画関係者です。これは映画の作り手も、客も含めた幅広い概念ですが、やはり「たまに劇場に来てイスに座ってスクリーンを見て帰って行く」だけの客には味わいがたく、それなりに場数を踏んだ映画ファンにならねば感じ取れないものなのでしょう。たぶん。

 そして、どうやら私もビギナー映画ファンとして、その領域に踏み込みつつあるのかも。そして、その結果として世界の見え方が変わってきたという気がします。宮崎アニメもね。

 ちなみに、宮崎駿のみならず、おそらく押井守もそういう映画の世界にいることになります。若い頃に映画を山ほど見たのなら、そういうことになります。

 とすれば、彼らの居場所はオタク世界のいかなる場所でもなく、映画界の一部です。だから、オタクに人気のある作品を過去に作ったことがあるからといって、それは単なる偶然。出発点もゴールも居場所もオタク世界ではないわけで、オタクのルールに従わないのも当たり前。その代わりに、映画界のルールに従っているわけです。だから、宮崎、押井といえば的外れな批判に晒される常連ですが、その理由も当たり前。映画界のルールに従っている以上、オタク界のルールで解釈しようとすると破綻します。それは、宮崎作品や押井作品や監督本人が破綻しているのではなく、違う世界のルールを無理矢理当てはめようとした批判者の方が破綻しているわけです。

 では私はどうするのかといえば、当面はもちろん今の方向性で行きましょう。つまり、なんちゃってビギナー映画ファンとして真剣勝負の末席に参戦します。映画をたくさん見ると、宮崎アニメや押井映画もよりよく分かるようになりそうだしね。何より、映画を見ることで人生が格段に充実した気がするし。

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