2010年06月26日
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邪悪なコレクション論とヤマト

Written By: トーノZERO連絡先

「以前、コレクション型と一期一会型という話をしたよね」

「うん」

「しかし、実は重大な事実に気づいたのだ」

「というと?」

「私は一期一会型なのだが、その資質をどこで作ったのかという問題だ」

「どこなの?」

「おそらくヤマトだ」

「どういう意味?」

「今回はその話をしようと思う」

コレクション型は邪悪への誘惑に満ちる §

「まず、話を始める前に、コレクション型の話をしよう」

「コレクション型は邪悪であるということ?」

「いや。間違えてもらっては困る。コレクションが全て悪いというつもりはない。実際、多くの美術館が過去の偉人のコレクションを起点にして運営されている。たとえば、長谷川町子美術館とかね。あれはけしてサザエさん美術館ではない」

「というと?」

「コレクション趣味は邪悪と隣接していて、間違ったコレクション趣味はいともたやすく邪悪に落ち込むということだ」

「なるほど。でもなぜ落ち込みやすいんだい?」

「いろいろな理由はあるのだが、最も大きなものは、自分自身ではなくコレクションが主役になってしまう可能性があることだ」

「え? コレクターがコレクションを作るのではないの?」

「普通はそうだ。人間がいて、その人間の価値観でコレクションが成立する」

「そうだよね」

「でも、しばしばその主題は倒置する」

「というと?」

「人間がコレクションのために使われてしまう本末転倒が起きやすいのだ」

「もっと具体的に言ってよ」

「たとえば、長谷川町子のように、気に入った美術品はぜひとも欲しいという話ならまだ主役は人間側にある。しかし、もしもXXに関する完璧なコレクションを作りたいと思ったらどうだろうか?」

「どうなるの?」

「コレクションの欠落を埋めるために、人間の方が無理をすることになる」

「そうか。それが、主導権をコレクションに取られた状態だね」

「そうだ。実はコレクションというのは、いろいろな意味でゆとりのある人間がその範囲内で行うものだと思う。というか、そう思えてきた」

「なるほど。でもそうすると貧乏人はコレクションなど無理ってこと?」

「ぶっちゃけ、そういうことだ。貧乏人はコレクションに使われやすい。あと都会人もね」

「というと?」

「都会は保管場所が足りないからだ」

「なるほど」

「スマートな都会人として生きるということは、コレクションなど持たないで都会という機会に生きるべきだろうね。つまり、一期一会だ」

「なるほど。それは精神論やべき論ではなくて……」

「そうだ。物理的な制約に立脚するものだ。従って、反論は難しい」

「じゃ、そろそろヤマトの話に入ってよ」

「正確にはヤマトに救われた話だな」

ヤマトコレクションの崩壊 §

「というわけでヤマトだ」

「うん」

「ともかく、子供の頃、ヤマトに関するものは全て集めたいと思ったが、いかんせん金がない」

「そうだね」

「ヤマトカードも友達に数枚もらったきり。これは近所でも売っていなかったからどうにもならない。売っていない以上、買えないのだ。石津嵐の小説版(単行本)も売ってなかったから、後半の本を友達から借りて読んだだけ。というわけで、交響組曲のLPとロマンアルバム、秋田書店のムックと買って、そのあたりで打ち止めとなってしまう」

「それはもう子供の購買力の制約だね」

「うん、致し方ない」

「それで?」

「それでもヤマトのムック本は全て買いたいと思った」

「バリバリのコレクター予備軍の子供じゃないか」

「うん。ベースやエミッター予備軍ではない」

「分かりにくいよ、そのネタ」

「ゲートとかドレインよりはマシはましななずだ。あるいはVCCとかVDDとかね」

「それはいいから先に進んでよ」

「というわけで、コレクター予備軍だった私が完璧に挫折したのは、さらば宇宙戦艦ヤマトの頃だ」

「なぜ挫折したの?」

「うじゃうじゃと本屋にたくさんのムック本が出たが、とうてい全部は買えなかった。結局、厳選してロードショー責任編集というムックを買っただけだ。ちなみに、これは1冊目の話。2冊目のAR台本が載っている方の版ではない。まあそれもあとから買ってはいるがね」

「話が細かいね」

「うん、細かいぞ。しかし、この時点でコレクションは不可能という認識が自分に刷り込まれたのだろう。そこからは、買ったLPも少ないし、ムック本も極めて少ない。要するに映画館で映画を見るところまではけっこう熱心だったけれど、コレクションにはあまり手を出さなくなってしまった」

「70mm版の完結編まで劇場に見にいったぐらいだしね」

「うん。映画を見ることへの熱意はまだあったけれど、周辺グッズを網羅することには、もう熱意がなかったのだ」

「なるほど。これがコレクション型に行かない原点というわけだね」

「うん。そうだ。機動戦士ガ○ダムというアニメが始まったときも、あれは凄いと思ったのだがヤマトのときのような全面的な熱狂はするまいと思った。やはりヤマトの体験が生きている」

「そう思ったの?」

「うん。あのアバンで、内側に湾曲した地面をぶち抜いてビームが撃ち込まれる描写には興奮したけどね。でも、あまり過剰に入れ込むのはやめようと思った。疲れすぎるからね。今にして思えば、それが既にコレクション型忌避だったということだ。ともかくいいシーンさえ見られたらそれで良いのだということで、あくまで一期一会に徹した」

「そうなの?」

「うん。ヤマトは最初のロマンアルバムどころか秋田書店のムックまでデフォで持っているが、ガンダム関係の本はほとんど持っていない。辛うじて、ガンダムセンチュリーの再刊版とか、MS ERAとか持っている程度かな。ちなみに、0080は好きなんだ。オタクの皆さんは0083が好きらしいのだけど、おいらは0080がベストだな。だから、MS ERAも持っているのだが、まさに例外的な話だ」

「たまたま好きだから1冊買ったけど、コレクションにはほど遠い感じだね」

「遠い遠い。14万8千光年以上遠いぞ」

「そういうセンスを作ってくれたのも、やはりヤマトか」

「うん。そうだ。ヤマトで本気になったからこそ、そのあとの作品では本気になってはいけない、つまりコレクション型になってはいけないと学んだのだと思うな」

「なるほど。これで話が終わるのだね」

「いやまだだ」

買えないという問題 §

「実はさ。ある一線を越えるとコレクションは成立しないのだ」

「というと?」

「そもそも金で買えなくなってしまうのだ」

「たとえば?」

「そうだな。たとえば、昔山田ミネコのコミックを集めていたことがあるのだが、そこで障害になったのは貸本時代の本は絶望的に入手できないことだ。もはや金の問題ですらない。現物が無いんだ」

「おっと」

「あとで復刻されたらしいが、その頃はもうさほどさほど熱心ではなかった、というかもっと正確に言えば、確か集めていたのは受験の頃の話で、いろいろな場所に行くからいろいろな書店に立ち寄るチャンスがあって、そこで本探しをするのがいい娯楽だったから集めていただけかもしれない」

「なるほど。コレクションが目的ではないわけだね」

「うん。目的は機会を生かした娯楽であって、揃えることではなかったかもしれない」

「なるほど」

「更に郷土史のような領域に行けば、現物すらなかなか拝むことができない貴重な史料がごろごろしている」

「なるほど。それは金を出しても買えないね」

「うん。だから、非常に基本的な史料は手元に揃えてもいいけれど、完璧なコレクションなるものに意味は無いんだ。どうせ無理だから」

「無理か」

「無理なのにそれを達成しなければならないという義務感や、できるという希望を持ってしまうとあとはひたすら状況が閉塞してしまう。自分を騙すしか、対処が無くなる」

「そうか。義務感や希望はこの場合、悪になるんだね」

「義務感や希望が悪いという意味ではないが、手段と目的が倒置してしまうとそれが悪にもなるということだ」

「藪の反乱みたいだね」

「そうだね。彼も別に悪意で反乱したわけではない。彼なりの義務感がああいう行動に彼を駆り立てたのだろう。でも、目的と手段が取り違えられている。彼は本来ならヤマト計画を成功させることで人類を救うべきであったが、人類を救うためにヤマトが邪魔であるという考えに至って出てしまった」

「ってまたヤマトネタ。やはり最後はヤマトなんだ」

「そうだよ。最後はやはりヤマトなんだよ」

「じゃあ結論としては?」

「おいらはヤマトのおかげで一期一会型の人間に育ってしまったので、コレクション型の人とは全く話が合わない。というか、刹那刹那を永遠に戻らない一瞬と捉えて生きている人間と、いつでも巻き戻しが出来ることが前提の人とは、見えているものが違いすぎて話が合わない」

「緊張感に差がありすぎるということだね」

「うん。知識の差じゃないんだ。目の前にあるものからどれだけの中身を得られるかという問題なんだ」

「なるほど。見落としてもどうせあとで見られると思っているが、いつでも見られると安心して2度と見ないような人たちとは話が合わないということだね」

「まあ、ぶっちゃけて言えばそういうことなんだろうね。劇場で見た70mm版ヤマト完結編とか、ここで見ておかないと次があるか分からないから見るわけだしね。まさか、そのあとで完結編として見られるものが全部70mm版が基本になるとは思ってなかったもの。そういう人間と、ヤマトなら分かっていると思い込んで最初から見ない人間の、話が合うわけがない」

「なるほどね」

「あるいは、AC3での上映がまた見られるか分からないから耳をすませばに通うとか、テレビで見た緯度0大作戦が気に入ったのに、権利関係の問題からいつまでも映像ソフト化されないから見られず気をもむとか。そういうのも似たような話かもね」

「でも、そもそも基本はヤマトと」

「うんヤマトだ」

余談 §

「この話の公開数日前に気づいたのだが (本文を書いたのはずっと前)」

ようこそ!電子書籍元年へ!自炊の未来!というブログ記事があって、そこの漫画が意味深だ」

「なるほど」

「これがコレクター型の趣味の問題を見事に言い当てているね」

「ネットで落としてきた本を読むと明らかに犯罪だけど、自分で買った本を自分で裁断して自分でスキャンして読んだら犯罪とは言えないのでは?」

「うん。理屈の上では買った本をどう扱っても買った人の自由だ。個人の範囲内ならね」

「ならば別に犯罪とは言えないのでは?」

「いやいや。君は勘違いをしているよ」

「というと?」

「私はコレクター型の趣味の問題と言ったのであって、別に犯罪とは言っていない」

「ああ、そうか。漫画の彼は明らかに金と労力を無駄遣いしているね。それが問題というわけだね」

「ちなみに、一気にツールでまとめて落としたエロ動画を1回も見てないという例もあるらしい。伝聞だけどね」

「2回見ない、ですら無いのか」

「つまりこういうことだね。いつでも見れるは一生見ない」

「コメント欄に書いてあったね」

「結局、これは突飛で過激でおかしな独自の話ではないってことだ」

「けっこう一般的にみんな思ってることなんだね」

「うん。いつでも見られる状態を作り出すために費やされる時間やコスト、更には保管コストは無意味に人間を圧迫してしまう。2回見ないのなら、1回見た後で捨ててもいいわけだ。むしろその方が楽だ」

「実際、君はコミックとか読み終わったら処分してるよね」

「うん。繰り返し見るものは希に残すけど、ほとんど何らかの形で処分する。保管コストがバカにならないからね。もう1回見る可能性が低いものは処分だ」

「好きなコミックも処分対象じゃないか?」

「うん。だってさ、良かったという結論が出て、それ以上踏み込み必要がないなら、心の思い出にそっと仕舞って処分した方がいいよ。保管コストに心を痛めるよりも、いい思い出のまま残る方がいいだろ?」

「その割にガラクタが多いという印象があるんだけど」

「まあそのあたりは様々な事情により、という奴だ」

「いろいろ難しいね」

「うん。少なくともあれはコレクションじゃないからもっと処分して良いと思っている。倒すぞガラクタ。世界の悪魔」

「思っているだけで手が動いてないよ」

「時間と体力が足りないのでね。特に、ちょっとは価値がありそうなものはネットオークションに出そうと思うとね」

「オークションか。あれは神経使うね。ちゃんと分かる写真も撮らないとならないし」

「連絡も迅速かつ丁寧に行う必要がある」

「それで余談の結論は何?」

「だから、この話のキモは、あくまでコレクションに使われてしまうという問題から私はヤマトに救われたという点にあって、いつでも見れるは一生見ない、という話ではない。それはもっと一般的な話なんだ」

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