「BS2で昼時にペリーヌ物語を再放送しておって、やっと終わったよ。全部じゃないが、かなり見ていた」
「かなり古いね」
「そうさ。とっても古いぞ」
「昔見てた?」
「いや、本放送時に見ていた記憶が無い」
「おっと」
「おいら名作劇場はカトリ派だから」
「じゃペリーヌはどうでもいい?」
「そうでもない。斉藤&宮崎コンビのカトリの祖型と見ることができると分かった」
「祖型?」
「勤勉な少女が特に知性を持ってどん底から這い上がっていく話だ」
「そうなの?」
「カトリは家畜番から都会の金持ちの奥様に気に入られて子供の世話も任されるし、学校にも行ける。ペリーヌはトロッコ押しから金持ちの秘書にまで自力で上がっていくのだ」
「なるほど似ているね」
「パブリさんはアッキさんみたいだしね」
「そうか」
「バロンはアベルみたいだしね」
しかしポイントは §
「でも、ポイントはどこか良く分かった」
「どこ?」
「ペリーヌ物語というのは、基本的に金持ちの娘が正体を隠して貧乏で苦労する話だ」
「つまり、正体が分かれば幸せになれることが予定調和として用意された話ということだね」
「そうだ。でもカトリは違う。カトリは別にお金持ちのお爺さんがいたりはしない」
「カトリの成長は本物だということだね」
「ペリーヌの成長が嘘だったと言うわけでは無いが、やはり見ているとそこで急に感情移入できなくなってガクッと来る」
「自分は金持ちじゃないからだね」
「ポリアンナ(パレアナ)でも同じなんだけどさ。金持ちの子供であることが明らかになったろ、金持ちの養子になったり、そういう結末は社会性という意味で良くない結末なんだよ」
「そうか」
「だから、本当はいちばん偉い人の孫でしたというオチは良くない。労働者の労働環境などの問題を描きつつ、いい線までは行ったがそこは煮え切らない」
「ははぁ。だんだん分かってきたぞ。つまり、カトリというのはその煮え切らない部分をたたき直したペリーヌのリベンジマッチというわけか」
些細な痛快さ §
- お店にお使いに行き、かけ算もできないのかと驚かれるが正しく金額を計算して店主を驚かせる。理由を聞かれて「足し算です」と答えるカトリ
- お金を偽金だとだまし取られたペリーヌに味方になった男達が代わりに「偽金という言い分が嘘だ」と言葉巧みに言わせて金を取り戻す
「こういう部分の小さな痛快さがやはり同じシナリオライターの手によるものだと分かるよ」
「そうか」
「かといって、カトリではロシアからのフィンランド独立とか、ペリーヌでは巨大工場の労働問題とか、スケールの大きい話も絡む」
「それはでかいね」
「巧妙にひっくり返すのが上手いのかもしれない」
「そう?」
「カトリとペリーヌのどちらでも、ヒエラルキーがひっくり返る瞬間が秀逸だ」
- 田舎の金持ち娘に刺繍を自慢され、本当の刺繍はそんな機械縫いでは無いと都会出身の奥様に仕込まれた技の刺繍を見せるカトリ
- ロバのパリカールの話で心を開かせた瞬間、ペリーヌしか知らないはずの知り合いの話をさりげなく振って正体を隠していたペリーヌに自分からペリーヌの証明を言わせてしまうフィリップ弁護士
「ヒエラルキーがひっくり返るのか」
「そうだ。ここでカトリは田舎の金持ちよりのお嬢様よりもずっと洗練された本物の世界で生きていることが証明される。既に格下の家畜番では無いのだ。そして、ペリーヌは工ビルフラン様をたぶらかす得体の知れない娘から、工場を狙う甥のテオドールの前で、ビルフラン様の直系の孫娘という近い血族であり正統な後継者であることが証明されてしまう」
「そこで階級ヒエラルキーがひっくり返るわけだね」