洗濯屋カンちゃんは、自分の洗濯屋があまり流行っていないことを悩んでいました。再開発が進んで、固定客がどんどん引っ越していることが原因でした。
そこで、カンちゃんは新しい顧客を開拓することにしました。
最初、自分の男の魅力でマダム達を魅了して……と思いましたが、すぐ断念しました。カンちゃんは美形ではなかったのです。
次に考えたのは、意見を聞くことでした。
「これからはフリーの時代だよ」
町内のご意見番がそう言いました。
しかし、無料の洗濯屋など不可能です。そもそも、洗剤にだって金は掛かるのです。ご意見番は「みんなで洗剤を持ち寄ればいいんだ」と言いました。
カンちゃんは試しに必要な道具を全て持ち込むことを前提に無料の洗濯屋をやってみました。
そして、すぐ破綻しました。無料ではカンちゃんの給料が出ないのです。
「ボランティアに洗濯させればいいんだよ」
ご意見番がそう言うので、店はボランティアに任せ、自分はコンビニでのバイトを始めました。
しかし、これもすぐ破綻しました。
ボランティアは熱心に仕事をしましたが、苦情が大量に発生しました。そもそも、素人のボランティアに任せられる仕事ではなかったのです。
カンちゃんはフリーの洗濯屋など無理と悟り、もう金輪際フリーにはしないと決意しました。
しかし、カンちゃんが店に復帰して有料の店として再び開くと、カンカンに怒った客達がカンちゃんに詰め寄りました。ボランティアの素人レベルのいい加減な仕事に怒った客達でした。
カンちゃんはボコボコに殴られてしまいました。
客達は口々に言いながら帰って行きました。
「ああ、すっきりした」
「ああいう、無責任な悪の洗濯屋は成敗されるべきだよな」
「俺たちは正義の行いをしたんだ」
「スカッとしたぜ」
「命の洗濯をしたって気分だよな」
そこで、カンちゃんはハッと気付きました。
「命の洗濯! 殴られるのも洗濯屋の仕事のうちなんだ!」
「うむ。その通りだ」とそこに町内のご意見番が出てきた。「それを教えるためにあえて上手く行かない方法を伝授したのだ」
「嘘付け!」カンちゃんはご意見番を殴ってスカッと命を洗濯しました。
(遠野秋彦・作 ©2011 TOHNO, Akihiko)