「そうさ。結局、ヤマトも負の側面があるから見応えがある。いくらヤマトが強くても波動砲を撃つ間もないまま反射衛星砲で追い詰められて、結局生身の決死隊が爆破して解決する。凄いメカがいくらあっても、十分ではない。作品タイトルのスーパーメカがやられっぱなしなんだ。ヤマトそのものも藪みたいな男がいてけして一枚岩では無い。せっかく生きていた兄さんは一緒に地球に帰ってはくれない」

「話を戻そう」

「うむ。そこは余談だ」

「ということは、音楽は別腹とすると、ヤマトも別の世界に行けるってことかな?」

「そうだ。というか、ヤマトの音楽は最初からヤマトという枠に収まっていない。たとえば、最初の交響組曲からしてヤマトの音楽ではなかった曲が入り込んでいる。宮川さんの音楽の世界だ」

「そうか。そこで既にヤマトの好き嫌いとは関係なく、音楽を語れるフィールドが存在するわけだね」

「うん。だからさ。宮川彬良さんの交響組曲再現コンサートはヤマト関係無い他の曲もやる。交響曲を再度やったコンサートでも実は他のヤマト関係無い曲もいっぱい演奏してる。でも違和感は無い」

「なるほど」

「もっとも、それに気付くのが遅れたとも言えるけどね」

「えっ?」

「だからさ。昔、凄く不思議だったのは『このアニメ面白いよ』ってアニメを見せたとき、ひらすらBGMだけ聴いていて、音楽だけ感心して論じてる奴がいたんだよ。いつどこで誰だったのか覚えていないけどさ。そういう人種がいた。でもそれは当然だったんだ。音楽世界は別の世界だから」

「それって声優ファンが別の世界みたいなもの?」

「ある意味で同じだ。『いい話を上手い演出でやってるよ。見てくれ』という意図がまるで通じないという意味では同じだからだ。まるで見ている場所が違う。いや、音楽だから聴いてる場所か」

「そうか。そこに君の苛立ちがあるわけだね」

「そうだ。アニメファンなら総合芸術としてのアニメを見ないでどうする。部分要素だけを見るパーツフェチでどうする、って思うわけだ」

「だから、『ある意味で同じ』ってことか。でもどうして『ある意味』なの?」

「うん。それはいい質問だ」

「ってことは別の意味では違うってこと?」

「うん。たいていの場合自称アニメファンの多くは現実には声優ファンの偽装であるというのがおいらの感触。事実かどうかは知らないが」

「それで?」

「でも、音楽を論じるのはアニメ好きのミュージシャンないし音楽ファン」

「そうか、必ずしもアニメファンを自称しないわけだね」

ショック §

「実は、これを書いている前夜の時点で早川優さんと腹巻猫さんのTwitterアカウントは突き止めていて、フォローしておいた」

「それで?」

「早川優さんからフォロー返しされた。けっこうショックだな」

「そんなに?」

「やはり、生きてる世界が地続きなんだよ」

「うむむ」

「しかし、おいらはほとんどTwitterでは呟いてないぞ」

「まあ機械的にフォロー返しをしているだけなんだろうね」

「とはいう、The Music Encyclopedia of LEIJI MATSUMOTO 1999の最後に『あの「交響組曲」に針を落とした感動の日』というフレーズを書いた人だ。完全に無縁とは言えんよ」

「それって、限り無く無縁に近い、の同義語だよね」

「ぎゃふん」

フォローアップ §

「交響組曲キャプテンハーロックのCDを発掘できたので、ライナーから引用しよう」

音楽は画面に一段と鮮やかな光を §
東映動画プロデューサー田宮武
このような恵まれた機会を与えてくださった
方々に､心から深く感謝する次第である｡
キャプテンハーロックの担当プロデューサー
に決まったとき､私は夢にも劇伴をシンフォニ
ーでやるとは思っていなかった｡
私はジャズがわりと好きだから､今度の劇伴
は､ひとつジャズっぽくいきたいなァなどと思
っていた｡
ところが､思いがけない話になったのである｡
保富康午さんにお願いした作詞の第1稿が出来
て､コロムビアの関係者の方と打ち合わせして
いたとき､いきなり木村さん(コロムビア部長)
から｢シンフォニーでいきませんか｣といわれ
て､一瞬耳を疑った｡まったく予想外のことだ
ったのだ｡
これはえらいことになったと思ったが､喜び
もこみあげてきた｡劇伴を本格的なオーケスト
ラでやるなんて､こんなすばらしいことはない｡
プロデューサー冥利に尽きるというものである｡
作曲の横山菁児さんには､短い時間制約のな
かで仕事をしていただいたが､キラッと光るも
のを持っている人は､どんな短い時間でやって
も､やはり光ったものが出るものだ｡この交響組
曲には､横山さんの才能がキラキラ光っている｡
いままでの例だと､劇伴音楽は普通60曲から
70曲ぐらいつくるが､横山さんの場合は約40曲｡
これでうまくいくのだろうかと最初心配だった
が､メニューを見ると､うまくあてはまってい
る｡さすがだなァ､と思わず喰ったものである｡
それに､演奏もすばらしく､録音を聞きなが
ら､私は最高にごきげんな気持ちになったので
ある｡
テレビ放映のアニメーションのほうも､りん･
たろうさんというすぐれた演出家を得て､見事
な画面を創り出している｡その画面に一段と鮮
やかな光りを添えるような音楽｡
絵も音も､アニメ-ションの新しい世界をひ
らくものだ､と私は自負している｡
応近は､アニメーションに対して､すごくフア
ンの手応えが多くなった｡あの何々のシーンに
使ったピアノのソロのところの楽譜を送ってく
ださいとか､何々に倣ったギターの譜を送って
くださいという手紙が､全国のファンから届く。
プロデューサーとしては､たいへんうれしい
たよりだが､｢キャプテンハーロック』の放映は､
おそらく最高の反響を巻き起こすに違いない｡
私にとっても､忘れがたい仕事のひとつとな
ることだろう｡

「なるほど」

「では突っ込んでいこう。田宮武プロデューサはジャズっぽく行きたいと思っていた。作詞の第1稿が出てくるあたりで思っていたのだから、かなり確定路線だったと思って良いだろう。しかし、そこで、コロムビア側からシンフォニーというリクエストが出た。寝耳に水だったようだ」

「そうか」

「だから、急に方針が変わって準備期間が短いまま突入せざるを得なくなった。作業期間が短いという件もライナーには出てくる」

「なるほど」

「でもさ。ここでポイントは、田宮武プロデューサ自身が『劇伴を本格的なオーケストラでやるなんて、こんなすばらしいことはない』と歓迎していることだ」

「それは嘘ってこと?」

「いや。よく見ろ。本格的なオーケストラを使えることを歓迎しているのであって、シンフォニーを歓迎しているわけではない」

「えっ?」

「大編成のオーケストラで演じるゴージャスなジャズもあり得るわけだ」

「えーっ」

「最後に『最高にごきげんな気持ち』というフレーズに注目しよう。これは、堅いクラシック系の表現では無い。ポピュラー系のくだけた表現だ。だから、シンフォニーで満足したようには見えない」

「それってどういうこと?」

「あくまで根拠の無い仮説だが、交響組曲キャプテンハーロックはシンフォニーを要求されつつ、実際の中身は途中から大編成オーケストラによるジャズっぽい世界に行ってしまうことを意図したのではないか。つまり、表面的にはコロムビアの要求を呑んだように見せかけて実はジャズっぽくやる初志を貫徹したのでは無いか。更にいえば、大編成でジャズっぽくやるというゴージャスな夢まで実現。そのことをコロムビアから出るLPのライナーには書けないので、あえてぼかして書いたのではないか?」