「TVアナログ放送が24日正午で終わったようだ」
「曖昧だね」
「見てないからさ」
「なんで見ないんだよ」
「見られないからさ」
「えっ? もうアナログ機材なんて馬鹿馬鹿しいから処分しちゃったの?」
「まさか。うちはほとんどアナログ機材のままさ」
「なのに、どうして見られないの?」
「うちの地域は、六本木ヒルズの影で難視聴地域だから、JCOMのケーブルが全家庭に行ってるんだ。もちろん、JCOM契約してない人は地上波の同時再放送しか受けられないけどね」
「それなら、それを契約した人の家に押しかければ見られるだろ?」
「ははは、そうじゃない」
「えっ?」
「デジアナ変換した地デジをアナログに流しているから、どの家に行ってもアナログ放送は見られない」
「なんだって?」
「デジアナ変換した地デジをアナログとして流しているから、まだうちはアナログの機材でも平気。そういう背景があるから、地デジ化を急がなかったのだ。駆け込むと高く付きそうだしね」
「しかし、君はアナログ放送の最後を見届けたいって言っていたじゃないか」
「とりあえず、見られないものはしょうがない」
「うーむ」
「というわけで、デジアナ変換が終了するまでは投げ売りになるであろうアナログ機器で安くしのぐかねえ」
「なんか凄いこと言ってるよ、この人」
「しょせんはテレビだしね。見られればそれでいいと思えば、別に最新機材で無くてもいいよ」
「地デジ対応する気ないよ、この人」
「念のために言っておくが、自宅のノートは地デジチューナー入りだぞ」
「じゃ、それでテレビ見ろよ」
「やだ」
「どうして?」
「画面小さいし、アンテナ線つなぐといざというときに移動して運用する邪魔になる」
「ぎゃふん」
電波の問題 §
「ちなみに、相変わらず電波が分かってない人は多いね」
「どんな風に?」
「VHFのアナログテレビ放送は帯域を食い過ぎているし、波長が長い電波はお宝だから奪い合いだ。無駄の多い放送システムが終わるのはある意味で当然」
「別の帯域で地デジ放送してアナログも残すってことはできないの?」
「無理。そもそも電波は有限だから」
「そんなに?」
「しかも波長が長くなると狭くなる」
「えっ?」
「音質はいいが帯域を食うFM放送はVHFに追いやられている。もっと低い周波数にはそれだけのゆとりが無いのだ。だから中波はAM放送なのだ。あれをFM変調したら帯域を食い過ぎる」
「そうか」
「だからアナログテレビの問題は、一見、『政府や放送局vs無駄な出費を強いられる視聴者』という対立構造に思えるがそうじゃない。お宝バンドを狙った諸勢力がテレビ放送勢力に『無駄すぎる。一部を明け渡せ』と迫るのが本来の対立構造なんだろう。でも放送業界は既得権益にあぐらをかいているから、『やれ』と政府が尻を叩いているんだろう」
「どうして無駄なの?」
「昔は、情報処理を行う高度なチップなど無かったからさ。単純な仕掛けで絵を出すには、どうしても無駄の多い方法で情報を送り出す必要があったのだ」
「えー。ICもLSIも無かったの?」
「テレビの誕生は真空管の時代だって」
「まさか」
「トランジスタを使ったテレビがそれだけで売りになる時代もあったんだ」
「ひぇ~」
まとめ §
「それで君のアナログテレビは正午を境に何か変わったかい?」
「何も変わっちゃいないさ」
「でも、もう12チャンネルでテレ東はやってないだろ?」
「デジアナ変換したテレ東の電波はアナログ12チャンネルで流れてきていたよ。東京12チャンネルは健在なり」
「ぎゃふん」