「キーワードを間違えてるぞ。ここは、下高井戸周辺史雑記だぞ」
「間違えていない」
「だって歴史を語るキーワードだろ。どこがガンダムと関係するんだよ」
「ははは。だからこそなのだよ」
「は?」
「ガンダムは別に好きでも無い。むしろ、ろくでもないと最近は思っているぐらいだ」
「ならどうして話題にするんだよ」
「周辺に作り出された物語の数は膨大で、到底マニア以外には把握できない。当然、おいらも把握できない」
「それに意味があるの?」
「ある。なぜなら、それだけ多いと、とんでもない異色作が産まれる可能性があるからだ」
「99の凡作を捨て石に1つの飛び抜けた作品が出てくるわけだね。たとえば?」
「魔法の少尉ブラスターマリというのが昔あった。一見ふざけた内容に思えるし、事実ふざけているのだが、実は1年戦争末期のジオン皇国の一般家庭が、太平洋戦争末期の日本の一般家庭になぞらえて描いてあるのだ。不在の母親の代理となり弟を育てる国策に協力するけなげな娘が主人公なのだ」
「もしかして、魔法で変身することよりも、そっちの方が凄いことなのでは?」
「そうだよ」
「では、ここで話題にするデイアフター……なんだって?」
「略してカイメモでいいよ」
「そのカイメモはいったいどう異色なんだい?」
「ファーストガンダムから二十数年後。『1年戦争記念館』ができ、そこで『ホワイトベース展』が行われる」
「は?」
「そこに、ジャーナリストになったかつてのホワイトベース乗組員のカイ・シデンが見にいく。そして、過去を知らない若い女性が案内役に付く。そこで、歴史の遺物になった過去を見たり、実際の体験とまるで違う解説を聞いたり展示を見たりする」
「それってもしかして?」
「フィクションではある。しかし、歴史的な展示館とその特別展のノリがよく描かれている。特に企業が協賛している大規模な商業的な歴史展のノリがよく描かれている。そういうのはいくつも過去に見てきたから分かるよ。フィクションだけど、空気感はまさに本物だ」
「歴史趣味に隣接しているわけだね」
「そうだ。結局、自分が体験してきたことにすらミステリーがあると気づき、そこから過去に対する興味が出てくる。そういう物語だ。架空史を扱っているフィクションだが、感情は本物だ。実際によくある話と大差ない」
「そうか。君はガンダムなんて見てないわけだね?」
「というか、正確に言えばこのコミックでガンダムは遠景にしか出てこない。けして活躍はしない。格好良く敵を倒したりはしない」
「じゃあ、ガンダムである必要は無いのでは?」
「ズバリ、無いよ。ガンダムに出てくるカイ・シデンという斜めに構えたキャラには価値があっても、ガンダムには価値がない」
「それでいいの?」
「いいよ。だって、俺がガンダムだ、なんて気持ちに浸れる子供ならともかく、ある程度分別が付いたら無敵のロボットなんてただの茶番にしか思えない。思い悩む人間にこそ感情移入はできる」
「だから、歴史展を見てまわる話には感情移入できるわけだね」
「まさにその通り」