「昔、宮内庁書陵部の人に本を貸したことがある。その人が新渡戸稲造の野球害悪論に興味を持っていて、それに触れた本として横田順彌さんの古書に関する本を貸したのだ」
「古い話だろ」
「変なところで縁があるモノだと思っていたら、またしても変な縁が出てきた」
「なんだい?」
「最近新聞の書評欄で、横田 順彌さんは『近代日本奇想小説史 入門篇』という本を出していることを知った。それで買ってみた」
「どんな本なのだ?」
「まだ読み始めたばかりだけど、日本のSFヒーローのルーツを辿るとして、明治以後の近代の小説からヒーローを探しているのだが」
「うん」
「始祖は押川春浪の段原剣東次としている。まあそれはいい」
「それで?」
「その次に出てきたのが、なんと賀川豊彦」
「は?」
「賀川豊彦が英雄的なキャラクターとして出てきた」
「ちょっと待て。賀川豊彦は実在の人物だろう。キャラじゃないだろう」
「実在しているが、これはキャラクターの話だ」
「は?」
「だからさ。賀川豊彦が書いた、賀川豊彦を主人公とする『空中征服』という荒唐無稽な小説が存在するのだそうだ」
「作者と作中の人物が同じ名前なのか?」
「そう」
「どのへんが荒唐無稽なの?」
「賀川豊彦は大阪市長なのだ。しかし、誰もどういう経緯で市長になったのか知らないという展開だ」
「それは無理がある」
「でも、ヒーローはそんなものだ。火星シリーズのジョン・カーターなんて理屈も理由も無く火星に行くぞ」
「そのあとはどうなるの?」
「工場の煙突から出る煤煙を巡って資本家と対決。それから、時間旅行したり、水中の国に行ったり、透明になったり、過去の自分と未来の自分がタッグを組んだり、最後は夢オチだったり、凄い内容らしいぞ」
「賀川豊彦って、労働運動とかでいろいろな功績を残したキリスト教徒なんだろ?」
「だからビックリじゃありませんか」
余談 §
「『近代日本奇想小説史 入門篇』は、ぜひとも桜上水Confidentialさんに読んで頂きたいな。感想を聞いてみたい」
「けっこう高い本だよ」
「入門篇は明治篇よりは安いし、読み終わったらお貸ししても良いと思っている」
追記 §
「『近代日本奇想小説史 入門篇』を読んだ方が面白い……かもしないので、そっちを勧めている」
「どういうこと?」
「原文よりもその方が面白いこともあるらしい。昔の横田さんの著書にあった」