「プリンセスチュチュ全話鑑賞終了!」
「古いアニメを熱心に」
「とりあえず、ドロッセルマイヤーとかくるみ割り人形とか白鳥の湖とか、そのあたりのキーワードでびびらないので、辛うじて見る資格はあったのだろう」
「なんじゃそりゃー、見る前からドロッセルマイヤー知ってるのかよ」
「プリンセスチュチュのドロッセルマイヤーは知らなくてもドロッセルマイヤーは知ってるよ」
「ひ~」
「というわけで、音楽的にも凄い。何しろ、ヤマト復活篇のゴルイとか、シェへラザードとか聞けたし」
「それが本題?」
「いや。本題はメタ物語。本質はバレエだと思って見たら本質はメタ物語だった」
「どこがメタなんだ?」
「この物語にはいったいいくつの物語階層があるでしょうか」
「は?」
「少なくとも、ドロッセルマイヤーが死んでいて自動機械が物語を書いている世界と、物語は終わったと言ってウズラを連れて立ち去るドロッセルマイヤーがいる世界は違うメタ階層に存在する。しかし、自分自身を登場人物かもしれないというドロッセルマイヤーは現実世界に存在していない。有自覚的に物語世界の登場人物なのだ」
「つまり3階層あるってことだね」
「いや、更にふぁきあが物語の中で物語を書いている。ここにもメタ階層が存在する」
「は?」
「この物語は一体いくつの物語のメタ階層が存在するのか」
- ドロッセルマイヤーが既に死んでいる世界
- ドロッセルマイヤーがまだ存在する世界
- あひるが住んでいる現実世界
- あひるが住んでいる物語世界
- 過去に死んだドロッセルマイヤーが書き残した本の世界
- ふぁきあが書いた物語世界
- プリンセスチュチュを作成している者達がいる現実世界 (物語のメタ階層ではない)
「あひるが住んでいる現実世界と物語世界ってどう違うの?」
「団長が人間だった世界となまずだった世界。門をくぐった時点で一部の人間が動物に変化してしまうようだ」
「でもさ。あひるはドロッセルマイヤーに会ってるじゃないか」
「そうだ。あひるはドロッセルマイヤーの墓も見るが、ドロッセルマイヤーにも会う」
「それってどういうこと?」
「メタ階層が曖昧なんだよ。混濁している」
「つまりなに?」
- 多重メタ階層が存在する
- 階層間のくくりは絶対的では無く一部が混淆している
「結局なんだい?」
「そうだな。ドロッセルマイヤーはメタ階層間を移動できるメタキャラクターだと言ったいいのかな。メタキャラクターなので、自分が虚構世界のキャラクターに過ぎない可能性を把握して表明することができる」
「へー」
「実は、プリンセスチュチュもみゅうとも、メタキャラクター。プリンセスチュチュは物語の登場人物でありながら現実世界のあひるでもある。みゅうとも最終的に物語世界に帰っていくわけで、実は人では無いが、人であるかのように学校に通ってダンスを踊ることができる。存在するメタ階層をまたがってしまうのだ。しかし、ドロッセルマイヤーのようにメタ階層に有自覚的ではない」
「つまりなに?」
「メタキャラクターの物語はメタメタ物語とでも言うべきものだ。これは面白い」
章立て §
「実は卵の章と雛の章があるわけだが、共通の登場人物でありながら役割が入れ替わることで全く別の物語が展開する」
「王子さまがみゅうとからふぁきあに変わってしまうわけだね」
「だからそういう意味では別の物語階層に行ってしまったとも言える」
「メタ階層を上がったようには見えないよ」
「メタ階層を上がったわけではないが別の物語世界に行ってしまった。そういう意味では、主要登場人物は物語を超越するメタキャラクターであると言うこともできる」
「物語の枠組みを超克してしまうわけだね」
「従って第1話で提示されたあひると王子のハッピーエンドという予感は否定され、最終的に王子とルウの物語世界への帰還として物語は終了する。全てを愛する王子を取り戻すと言う予感は否定され、全てを愛する王子は戻って来ない。心が全て戻った王子はルウだけを愛してしまう」
「なぜ?」
「登場人物が同じであるにもかかわらず、物語が別物だからだ」
「なぜエデルは消えてウズラが出てくるずら?」
「卵の章はエデルが物語をまわす駆動力となった。しかし、雛の章では実はウズラが物語を意図せずしてまわしてしまう話になるのだ。だから、エデルは謎を掛けて引っ張るキャラだが、ウズラは純情で無自覚なキャラになる。物語で果たす役割が違うのだ」
「でもさ。王子の心のカケラを探す物語という意味では継続しているよ」
「そこだ!」
「どこどこ?」
「卵の章と雛の章は全く別の物語であるにも関わらず、両者の間で継続している物語も存在している。そこでも物語のメタ階層が存在する」
まとめ §
「この物語は全体がドロッセルマイヤーの皮肉な謎かけとして存在している。謎とするために、メタ階層を多重化して更に混濁化させてある。解釈しようとする者は泥沼に落ちる」
「落ちるのか!」
「そもそも猫先生はなぜあれほど結婚にこだわるのか。それにも関わらずヤギ先生の求婚はなぜ断るのか」
「猫先生もか!」
「りりえは、友達でありながら、なぜあひるの失敗を望むようなことばかり言うのか」
「りりえもか!」
「ぴけはそんなことはないのだぞ。酷いのはりりえだけだ」
「そうか」
「それにね、なぜ毎回チュチュは『私と一緒に踊りましょう』というのか。ドロッセルマイヤーは『お話の好きな子はよっといで』と言うのか」
「結局謎だらけじゃん」
「そうそう。そう簡単に解釈できると思うなよ」
「その真意は一体?」
「このプリンセスチュチュには語られた階層の上にもう1つ語られざる物語のレイヤーが存在すると思うよ」
オマケ §
「ああ、わかった」
「なに?」
「『お話の好きな子はよっといで』の真意はお話の好きな子ではなく、お話に関するお話の好きな人という意味だったのだよ。メタ的な意味づけがされている。単におとぎ話が好きな人を勧誘している訳ではない。いや勧誘しているのだが、意味はそれ以上にある」