2014年04月04日
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フジミ1/72瑞雲11型初期生産型昭和19年12月第634航空隊キャビデ基地T-06号機

Written By: 川俣 晶連絡先

瑞雲

「とりあえず、これで完成としよう。このあとケースを何とかして収納する必要もあるのだが。まあ、それはそれとして」

「説明してくれ」

「立体物は説得力が全て。説明はないよ」

「いいや、それは困る」

「なんでだよ。見たら分かるだろう?」

「なんで若草色に塗ってあるんだ? 濃緑色だろ、普通は」

「そんなに能書きが聞きたいか?」

「少なくとも若草色にした理由は知りたい」

「いいだろう」

そもそも話から §

「そもそもなんで瑞雲?」

「昔、宮崎駿が瑞雲の映画を検討したと模型誌で言っていたので、キットを買って作り始めたが挫折して放置した。それを今回継続しただけ」

「宮崎駿のため?」

「いいや、既に宮崎駿の趣味などどうでも良い。自分の趣味として作った」

「どういう趣味なんだ?」

「瑞雲は空戦も急降下爆撃もできるマルチロール機だと気付いた瞬間に面白くなった。ACE COMBAT 5だとRafale Mに近い性格だ」

「ふーん。だったらどうなの?」

「未来を先取りしたようなセンスなのだよ。とても洗練されている」

「どういうこと?」

「水上機の万能機とは、今ならVTOLの万能機と同じようなもので、ハリアーやF-35に近い位置づけなのだ。そういう万能機の始祖に近い存在なのだ」

「そこがいいわけ?」

「そうだ。最高の性能ではないが、何にでも使える便利飛行機だ。こういう兵器があれば便利に活躍できることは間違いない。特に数を揃えられないときはね」

「つまり航空戦艦に乗せるにはこれでいいわけか」

「そうさ。どうせ機数は載らないなら空戦も爆撃もできる機種がいい」

「なるほど……。でも敵の強力な制空戦闘機が来たら負けちゃうよ」

「そういう敵は紫電改とか烈風に任せておけば良い。瑞雲は速度や運動性に劣る爆撃機等を狙えばいいのだ」

「な、なるほど……。最高性能でなくても使えるとはそういう意味ね」

「そういう意味で、瑞雲は面白い機体だよ。日本機らしくない洗練された名機だ。結局、結論は宮崎駿と似てしまったがね」

「似ていていいの?」

「いいのだ。なぜならあくまで自分の価値観の中で自分から出てきた言葉だからだ。あくまで自分の意見なのだよ」

「似ているのは結果論ということだね」

「そうだ。そこに至る理由を全部説明できる。自分の言葉だからね」

模型の意味 §

「というわけで模型の塗り方の問題に入ろう」

「若草色だね」

「まず大前提として色に正解はない。光の具合や周囲の環境、空気遠近法、見え方などでいくらでも色は変化する。まあ、青が赤になったりはしないけどね」

「緑である限り、どんな緑でも間違いとまでは言えないわけだね」

「そうだ。次の問題は日の丸の赤」

「赤がどうした?」

「赤は緑と喧嘩する。一緒にしては相性が悪い色なのだ」

「日本機の緑に日の丸は色の悪夢ってことだね」

「そういうことだ。だから、いかにして悪夢を乗りこなすのかがポイントだ」

「それで?」

「相性の悪い色も、ワンポイントで入っていれば良いアクセントになるのだ。だから日の丸の赤はワンポイント扱いにする前提で色の設計を開始したのだ」

「それで?」

「あくまで、異質な暗い赤がぽつんとある感じの色バランスで。必然的に緑は明るく目立つ感じで。赤と対等にはしない。あくまでメインカラーは明るい緑」

「ふむふむ」

「それだけじゃない。緑を明るくすることで、空戦できる軽快な機体というイメージも表す」

「一石二鳥か」

「いやいや。それに加えて、日本機のワンパターン濃緑色はやめたい、という希望まで叶えられた。一石三鳥だよ。まさにこれ以外の色はないという一色だ」

「ひ~」

「それにマーキングの黄色とも調和する。まさに絶妙の一色」

「一石四鳥」

「まだまだ。結局さ、ヒストリカルな模型を作っているのだから、極端な嘘は塗れない。完全な現実の反映は無理だとしても、あからさまな嘘は塗れないという意味で、少なくとも緑ではある」

「一石五鳥」

「空気遠近法だと遠いと白っぽくなっていく解釈もありだから、より白っぽい緑という意味でこの色はありだろう。もうちょっと青の方向に触れるともっと良かったのだけどね」

「一石六鳥」

「まさにパーフェクトアンサーだった」

「弱点はないのかい?」

「弱点はパーフェクトすぎること。そこから更に変更する余地が乏しい」

「ダメじゃん」

「それに、素人が勘違いして適当な緑に塗ったようにも見えてしまうことだな」

「ひぃ~」

「で、知りたいのはこんなところかな?」

「あともう1つ教えろ。なんでコクピットから尾翼までアンテナ線を張った。キットにそんなパーツは入ってないだろ?」

「ランナー伸ばして作ったよ」

「なぜそこまで手間を掛けた?」

「手が滑っただけだ。瑞雲が気に入ったからともいえるな」

「キットには移動用の台車も付いていたはずだ。それは作らないのか?」

「ああ、あれか。パーツがどこかに行って台車は作れなかったのだ」

「まさか、それだけの理由で作ってないのか?」

「うん」

「ぎゃふん」

苦労話 §

「苦労話もしろよ」

「キャノピーだけどさ。昔はマスキングしてエアブラシで吹こうとしていた。でも今はもうフィギュアの目を描くことで培った腕で直接描いてしまう。幸いキットにはキャノピーが2セット入っていたのだ」

「開と閉だね」

「そうだ。マスキングして塗った状態の閉の方は捨てて開のパーツを付けて塗ったよ」

「他に何かある?」

「デカール!」

「デカールがどうした?」

「このキットのデカールは白と有色の2枚あるの。そして白デカールを張ってからその上に有色デカールを張るの。しかも、数が多いの。普通、デカールは一晩で張り終わるけど、このキットは全部張るのに3晩ぐらい掛かった」

「ひ~」

「でもさ。やっぱり最高の苦労は排気管。こんな小さいパーツを10個ぐらい付けるの。まさに死ぬよ。ほとんどプラスチック屑みたいなパーツだぜ」

「付けたのか?」

「根気だけを友達にして付けたよ。ただし1つは紛失してプラスチック屑が付いている」

「本当にプラスチック屑で代用したのか」

「みんなには内緒だぜ。パッと見ても分からないと思うけど」

まとめ §

「そんなに瑞雲が気に入ったのならもう1機作るかい?」

「いや、これ1機しか作らないつもりだから手間を掛けられた。もう1機は作れないよ」

「手間の掛からないキットだったら?」

「そうだな……1/144なら手がすべることはあるかもしれない」