夜の街に客引きのお姉ちゃんが立っていた。
「妖怪喫茶ぬりカフェへどうぞ。すぐ近くです」
「コーヒー1杯いくらだい?」
「120円です」
「それは安いな。ぜひ行こう。妖怪喫茶ぬりカフェの場所はどこだ?」
俺は場所を教えられて歩き始めた。
ところが、いくら歩いても前に進まなかった。
何かの見えない壁があった。
「どういうことだ。なぜ進めない?」
「妖怪塗壁が、邪魔をしているんです」
「それじゃ喫茶店に行けないじゃないか」
「ええ。行けません」
「なんだって?」
「だって、妖怪喫茶と言ったじゃないですか」
「でも、コーヒー120円って」
客引きのお姉ちゃんは目の前の自販機を指さした。缶コーヒーが120円だった。
(遠野秋彦・作 ©2014 TOHNO, Akihiko)