2014年10月16日
遠野秋彦の庵小説の洞 total 1491 count

三百字小説『妖怪喫茶ぬりカフェ』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 夜の街に客引きのお姉ちゃんが立っていた。

 「妖怪喫茶ぬりカフェへどうぞ。すぐ近くです」

 「コーヒー1杯いくらだい?」

 「120円です」

 「それは安いな。ぜひ行こう。妖怪喫茶ぬりカフェの場所はどこだ?」

 俺は場所を教えられて歩き始めた。

 ところが、いくら歩いても前に進まなかった。

 何かの見えない壁があった。

 「どういうことだ。なぜ進めない?」

 「妖怪塗壁が、邪魔をしているんです」

 「それじゃ喫茶店に行けないじゃないか」

 「ええ。行けません」

 「なんだって?」

 「だって、妖怪喫茶と言ったじゃないですか」

 「でも、コーヒー120円って」

 客引きのお姉ちゃんは目の前の自販機を指さした。缶コーヒーが120円だった。

(遠野秋彦・作 ©2014 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦