「宇宙戦艦ヤマトと船のビジュアル論というのをやったけれど、まだ話は終わっていないことに気付いた」
「それはなんだい?」
「船の集団としての船団あるいは艦隊のビジュアル論ということだ」
「でもさ。ヤマトってほとんどいつも一隻じゃないか」
「その通り。だから見過ごされやすかった。しかし、100%ではないし、地球艦隊も出てくるし、敵は艦隊であることが多い。無視はできない」
「では艦隊の定義とは何だい?」
「その前に独航艦を定義しよう」
「ドイツの航空母艦かい?」
「そんなものあらへんがな。独航とは単独で航行することで、独航艦とは単独で行動する軍艦だ」
「何か具体例を出してよ」
「僚艦を伴わない宇宙戦艦ヤマトが典型的な独航艦だ」
「ぎゃふん」
「では艦隊は何か」
「複数の軍艦の集合だね」
「それを艦隊と言ってしまう用法もあるようだが、それは違うと言っておこう」
「何が違うわけ?」
「【艦隊】とは、【艦】の【隊】だ。【隊】を形成しない複数の軍艦がそこにあっても、それは艦隊とは呼べない」
「たとえば?」
「敵と味方の軍艦が交戦中の場合、そこには軍艦が2隻いるから艦隊になる、とは通常言えない」
「【隊】じゃないものね」
「味方であっても、【隊】を形成しない場合、それは艦隊とはいえない」
「分かった。指揮系統が違う軍艦が2隻いても、それは協調して働くことはなく、【隊】を形成しないわけだね」
「そうだ」
「つまり、以下の認識は間違いなのだね」
「そうだ。実際には以下のように分類できる」
「ではそうなると何がわかるわけ?」
「艦隊は、【隊】だ。従って、通常役割を分担する」
「主力艦に随伴して守る防空巡洋艦と、水雷戦隊旗艦として敵艦に突っ込む巡洋艦では役割が違うわけだね」
「そうだ。先頭に立って航路を警戒する駆逐艦と、空母に着艦できなかった航空機パイロットを海から助ける役の駆逐艦の役割は違う」
「それで結局何が言いたいわけ? 役割の違いなんて、ビジュアルで見て分かるものではないだろう? 駆逐艦は駆逐艦だろう?」
「いや。役割の異なる複数の艦を束ねた【隊】は、その役割をより良く発揮させるために適切な隊列を与えられねばならない」
「は?」
「目に見えるんだよ。役割の差は」
「はあ」
「ただし、それほど複雑な配置は取れない。それほど機敏に動けない軍艦は、単純な隊列にしておいた方が扱いやすい。だから縦一列の単純陣や、横一列の単横陣などが使用される。より複雑なものでも、主力艦を護衛艦で囲む輪形陣などだな」
「それで?」
「そのような観点で見る限り、2199を含むヤマトもあまり艦隊になっていない」
「えー」
「実は、まがりなりにも艦隊戦になっていたのはヤマトでも少ないような気がする。ヤマト1974の第1話とか、復活篇の隊列を組んだ移民船団とか」
「それは何を意味するんだい?」
「つまりね。軍艦以上に艦隊を描くのは難しい。ほとんどの場合、素人にはできないと思っていい」
「できるのはどんな人?」
「第1警戒航行序列みたいな配置図を食い入るように見ていた限られた子供達の末路だけだろう。そういう実際の配置を見ていると、常識というものが培われて、ありそうな配置と、無理のある配置の違いが見えてくる」
「ってことは、観艦式にすら問題があるの?」
「そうだ」
「でもさ。観艦式だろ? 軍艦を見るだけだろう? 全ての軍艦が同じ役目しか担っていない以上、配置を工夫する意味が無いだろう
「違うんだよ。最高の姿を見せてアピールするために、綺麗に配列するのが普通なんだよ」
「綺麗に?」
「そう、一列にピタッと並べるとか。順番を守るとか。国家君主の前を正しい順番で通過させるとか」
「デスラーの祝日かよ」
「それに近い」
「何となくそのへんに停泊しているのはあり得ないわけだね」
「そうだ。何となく場所取りをしているだけならあちこちで衝突事故が起きる」
「単に集まっただけで統率されていない烏合の衆だったという解釈は?」
「そうだとしても、泊地には決まった投錨場所というものがある。どこに泊めても良いわけではない」
「分かった。適切なブイに停泊していったら自動的に適切な並びに配列されるってことだね」
「そうだ。雑然とし過ぎる」
「ってことは、2199の観艦式よりデスラーの祝日の方が描写としては良い?」
「まあ、デスラーの祝日も問題あるといえばあるけどね」
解決策? §
「君はどうすれば良かったと思う?」
「どうも、凄いことイコール数を増やすこと……といった錯覚が世の中にあるような気がする」
「たとえば?」
「ヤマトの最強の敵は大砲をたくさん付けよう→超巨大戦艦。数を増やそう→ヤマトのきりもみ急降下ショックカノン撃ちまくりで壊滅」
「数に頼ると描写が安っぽくなるわけだね」
「その点で、ザバイバルの大戦車隊は少しだけマシ。ザバイバルと斎藤の対決に収束するから」
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「数を頼っちゃダメ」
「それはヤマトの主砲を増やしても意味が無いってこと?」
「そうだ」
「新宇宙戦艦ヤマト否定だね」
「まほろば否定も含むよ」
「ラ號も否定されちゃうわけ?」
「あれはぎりぎり。あり得ないトンデモ超戦艦という表現としてあり。でも、新宇宙戦艦ヤマトは限度を超えてしまった」
「でも四連装砲塔は好きなんだろう? じゃあどうすればいいんだよ」
「だからさ。四連装砲塔には四連装砲塔のお作法というものがある」
- 小口径多砲身主義で四連装砲塔を3基付けようとしたが、無理が祟って1基は二連装で落ち着くKG5パターン
- 四連装砲塔を2つだけ付けるフランスパターン
「KG5パターンかフランスパターンに行くのが自然なのだね」
「四連装砲塔が好きといったらおそらく、この2つのどちらかに憧憬が行き着く」
「でも、むやみに砲身数が増えるわけでは無いのだね?」
「そうだ。実は四連装砲塔三基12門は要らない。戦艦の主砲はだいたい8~9門あればいいからだ。そういう意味で、2連装四基八門。3連装三基9門。4連装2基八門が理想的バランス。ちょっとデフォルメが入って最大12門程度。それ以上増やしても実は感覚的に分からなくなってくる」
「軽巡時代の最上の3連装5基15門はいいのかよ」
「あれは、小口径多砲主義として別のロマンがあり得るが、あくまで小口径砲を積んだ場合に意味がある」
「分かった。防空巡が山ほど高角砲を付いているのと同じなのだね」
「そうだ、複数の方法から入り込もうとする敵機を迎撃するなら、対空砲は多くて良い」
「それはパルスレーザーなら数が多くても良いってことだね」
「そこは主砲と違う」
「じゃあ、四連装砲塔がいっぱい付いてるドメラーズは?」
「実はあまり強そうに見えない。逆説的に」
「小口径多砲主義に見えてしまって、大きい船に見えないわけだね」
「船は大きいけれど、武装が小さく見えて弱そう」
「で、結論はどうなの?」
「本来軍艦には絶大な存在感がある。数を増やす必要は無い。むしろ、数を増やすと描写が安っぽくなる可能性が高い」
「じゃあ、たった一隻で航海するヤマトは逆説的に正解ってことだね」