「これはかなり来るね」
「何が?」
「Visual Studio Community 2013だ」
「それはなんだい?」
「Visual Studioのフルバージョンの機能を、小規模開発では無料で使えるエディションだ。詳しい話は省く」
「Expressエディションの機能を拡大したわけだね」
「そうだ」
「でも、良く分からないな。無料のVisualStudioに意味があるの?」
「とってもあるとも」
「その理由は?」
「うん。昔ね。Macintoshというそれはそれは中身がスカスカなのにやたら高価で、金持ちがステータスに買うパソコンがあったわけだ」
「今でもあるよ」
「まあまあ。中身はあまり良くないし、高すぎるし、単に【私はこれを買える財力がありますよ】と誇示するぐらいしか効能は無かった」
「センスがいいんじゃないの?」
「あれのどこがいいのかまず説明してくれ」
「見かけが格好いいじゃ無いか」
「中身はグダグダ。包装紙の綺麗さだけで中身が腐っている商品を喜んで買うのは阿呆さ」
「ひ~」
「話を戻そう。Macintoshには実は謎が1つあった」
「それはなに?」
「アメリカに行くと金持ちとは思えない若者がやたらMacintoshを使っているんだ」
「泥棒したの?」
「いや、あとからどこかで読んだのだが、なんでも学生相手には安く売ったらしい」
「採算度外視?」
「いや、どのみち中身はスカスカだったんだ。安く売れるだろう。売る気になれば」
「ひ~」
「話を進めるぞ」
「それでなに?」
「なぜ、ろくでもないパソコンから一定の支持が消えないのか。どこにカラクリがあるのか。それが【若い頃に使わせる】だったのだよ」
「どういう意味?」
「手慣れたものは、社会人になっても手放したくないのが人情。だから、同じものを使い続ける訳だ」
「そうか。頭の柔らかい若者のうちに慣らしておけば、自動的に社会に浸透するわけだね」
「そうそう。Javaも同じで、やはり何も知らない若者に取りあえず教え込んでおくと、それだけで【慣れ親しんでいるから採用する】という経路で使用されてしまう」
「出来が悪くても?」
「そうそう。この場合、出来は関係ない。慣れているか慣れていないかだけが問題」
「ってことはあれか? 学生に使わせればそれだけである程度の勝ちは得られるってことか?」
「使い込んで慣れてくれればな」
「その話って、どうなんだろう?」
「うん。実は【最初は重要】という話には別の根拠もあるんだ」
「それはなに?」
「1970年代後期のCPUの信奉者は大きく分けて80派と68派がいた。では、誰が80派になり、誰が68派になるのか。最初に使ったのが80系なら80派になり、68系なら68派になる確率が高いと昔読んだ」
「要するに【最初は重要】なんだね」
「そうだ。そして、子供は金を持っていないから、高いものは買えない。だから高いと自動的に【最初に使ったもの】になれない」
「そこで、パソコンを学生相手に安く売る商法が成立するわけだね」
「でもね。ハードだと材料費や流通費があるからゼロにはできない。ところがソフトはゼロにできる。開発費用の回収ルートさえあれば、ゼロにしても成立するんだ」
「それがVisual Studio Community 2013ってことだね」
更にその先には §
「でもさ。MSの技術しか使えないならタダでも敬遠されるのではないの?」
「それがそうでもないんだよ」
「どういう意味?」
「実は現時点で既に多くの他社、OSSの技術がVisual Studioで使用できる拡張が存在する。Visual Studioは環境であって、その上に様々な開発システムを構築できるんだ」
「それでも、まだ足りない気がする。標準ではないというだけで、敬遠されることはあるような」
「実は、2013の次バージョンになると、いろいろな非MS系の開発機能が入ってくる。OSSの開発機能も取り込まれてくるし、Androidのエミュレータまで標準で入ってくる。非MS製品向け開発にも最善になろうとしている」
「いいのかよ。他社製品への便宜を図って」
「良いと思うよ。MSって本来ソフトの会社だ。他社ハードへの便宜なら昔から図っている。自社ソフトさえ売れればOKだ」
「今はソフトとサービスの会社だね」
「そうだ。要するにVisual StudioとWidows Azureが使用されてMSが儲かれば、エンドユーザー自身が持っているデバイスがAndroidでもいいわけだ」
「じゃあ結局最終的に行き着くところはなに?」
「やはりコードを書くことの価値を復権させてほしいよね」
「システムは魔法じゃ無い。人が1つ1つ書いて構築するからこそそこにあるってことだね」
「そう。不満があるなら自分で書けばいい。そういう世界を取り戻そうじゃないか」