彼はコミックの3巻しか読まない男だった。
ある日、俺は彼が嘘を付いているのではないかと疑った。彼が読んでいるコミックは確かに3と書かれていたが、どうも様子がおかしかったからだ。どう考えても5巻から出てくるはずのキャラクターが描かれている。
「そのコミック、本当に3巻か? 寄越せ!」
彼の手を無理矢理取り払うと、3だと思った数字は8だった。手で数字を半分隠していただけだった。
「そら見ろ! これは3じゃない、8だ!」
すると彼は答えた。
「これはタイトル。【酢蛸の8ちゃん】なの。それからこれは合本の3巻。通常の単行本の6巻相当だけど、ちゃんと3巻だよ」
俺は恥ずかしくなってタコツボがあったら入りたい気持ちだった。
(遠野秋彦・作 ©2014 TOHNO, Akihiko)