「なんとなく、ダラダラと見たのだが、気づいた点が2つあるのでそれだけ言っておこう」
「何だよ」
いじめっ子 §
「冒頭のいじめっ子がわあわあ言っている描写と、会議で海軍の軍人がわあわあ言っている描写が似ている。要するに同じなんだ」
「海軍の軍人がいじめっ子と同じ?」
「そうだ。この映画が右翼から叩かれる理由が良く分かるだろう? 栄えある帝国海軍軍人を愚弄する映画なんだぜ」
夢の問題 §
「この映画全体を貫くキーワードは夢なんだ」
「夢を見ている少年から始まって、最後は夢で終わるわけだね」
「そうだ。現実はとても悲惨だ。地震は起きるし、小さな客車に客はすし詰めだし、飛行機は落ちるし、ドイツ人は嫌な奴等だし、特高に追われるし、嫁さんは死ぬ。唯一夢のように素晴らしいのは軽井沢だけだが、それも【夢】に過ぎないとクレソンおじさんから喝破されてしまう」
「夢にしか逃げ場が無いのか」
「だが最終的に、夢も荒廃する。夢の世界は飛行機の残骸で埋め尽くされ、待っていた夢の中の嫁さんも消えてしまい、二郎設計の零戦の大群も【一機も帰ってこなかった】という結末で終わる。夢にしか逃げ場が無い世界を延々と描いて最後に夢も崩壊して終わるのがこの映画。最終的にカプロニおじさんしか残らないが、彼が勧めるのはワインだ。既に飛行機ではない。もう酒しか残らないんだ。夢の世界だというのに。本当に見ていて良いところが何も無い」
「でもそこがいいんだね?」
「そうさ。空虚な夢や希望を描くよりも、とても誠実だ」
「子供相手にでも?」
「子供は夢や希望を持つべきだ。でも、それなりの年齢に達した大人はもっと現実を見ないと」
オマケ §
「この映画で最も面白いのは、右翼も左翼も喜んで叩いていることだ」
「右翼と左翼は対立しているはずだろう? なんで同じ映画を叩けるんだよ」
「左翼は、悪の象徴の零戦の設計者の映画だという時点で許容できない」
「ふむふむ」
「右翼は、普段から彼らが言っている【素晴らしい日本】を否定するような内容を許容できない」
「なんと」
「だからさ。右翼は上手く回らないエンジンでヨタヨタと鳳翔に着艦する複葉機を許容できない。でも左翼は空母を描いた時点で軍国主義の復活だと叫んでやはり許容できない」
「真実はどこにあるんだよ」
「右翼にも左翼にも無いことだけは確かさ」
「でも、そんな世界の全てを敵にまわすような映画を作るとは、宮崎駿のヘソは曲がりすぎなのじゃないか?」
「今の時代、自らの健全さを維持しようと思うことは、世界に敵対することを意味するのさ」