「手書き地図憲章推進委員会の手書き地図憲章があまりにも酷かったので批判しておこう」
「どこに批判点があるわけ?」
「この憲章を要約すると以下の4点だろう」
- あなたが愛することを
- あなたのエリア愛を
- 過程を味わう
- 自分の物語
「これの何が問題なの?」
「3番目は主語が無いが事実上【あなた】と見なして良いだろう。4番目の【自分】も、事実上の【あなた】」
「【あなた】とは?」
「地図作製者」
「つまりなに?」
「地図作製者の都合が100%肯定されていて、読者の都合が一切含まれていない」
「では読者の都合とはなんだ?」
「地図から意味を読み取るのは読者の問題。読者には自分の価値観と目的があり、地図からそれを読み取る。地図作製者の個人的な愛とか物語には何の興味も無い。そういうことだ」
「なぜそこまで言い切るわけ?」
「この種の地図を歴史研究でいくらでも見ているのだが、おおむね迷惑。正確な位置関係も分からないし、地図そのものに一貫性がない。欲しい情報が無いことも多い」
「なるほど」
「だからさ。【自分の物語】なんてただのマスターベーション。他人は読みたくない」
「もし、ぜひとも鑑賞したい素晴らしい絵が描かれていたらどうなる? 美術品としての価値は無いの?」
「美術品と言えるだけの水準まで突き抜けていたら、それはそれで価値はあるだろうが、地図としての価値は高いかどうか分からないぞ」
「ひ~」
「ともかく自分中心主義の読者不在は良くない態度だ」
あえて聞くが §
「あえて質問する」
「なんだい?」
「君も物語は語るだろう?」
「時にはな」
「それはマスターベーションかい?」
「厳密に言うと違う」
「なぜ?」
「私が考えた物語ではあるが、読者のための物語だからだ」
「その意味は?」
「読者が読んだときに最も面白く感じられるように設計してある。自分が書いた時に面白いわけではない」
「そういう他人のための物語を設計するわけだね」
「そうだ。読者のリアクションを想定しながら書く」
「だから、あまりにも書き手偏重の憲章はつまらないわけだね」
「読者は置いてきぼりにされているからな」