「もうちょっと映画が見たよ」
「贅沢を言うな」
「やっとセッションを見てきたよ。新しいTOHOシネマズ新宿で」
「ふーん。TOHOシネマズ新宿ってどうだった?」
「そうだな。ロビーがバルト9風、エスカレーターが新宿ピカデリー風。スクリーンの前のフロアは横浜ブルク風」
「オリジナリティは無いのかよ」
「屋上のゴジラだけはオリジナルかな」
「でも劇場に入ったらもう見えないじゃないか」
「そうだね」
「結局全体としてどうなんだ?」
「周辺はゴミゴミしている街だし、人は多いし、やっぱり落ち着けないね」
「やっぱり府中がいい?」
「駅からの距離といい、落ち着いている雰囲気といい、府中の方が好きだな」
感想「セッション」 §
「じゃあ、肝心の映画を語れよ」
「そうだな。ポイントは3つ」
「ジャズとは?」
「全編ジャズが流れ続ける」
「ゲイとは?」
「師匠の男と弟子と若者の関係で始まって終わる。ヒロインっぽく出てくる女性は最終的に絡まない。男の度を超えた愛憎ドラマだ。本編中でも指揮者が楽団員をゲイ扱いして罵倒する」
「教育とは?」
「要するに限界を超えた本物の人材を育てるという話だ。そして、それが成し遂げられたとき、弟子は師匠を乗り越えてしまう」
「良い映画だったと思うかい?」
「思う。映画館で見られる映画がみんなこのレベルなら、本当に毎週通える」
感想の続き §
「それで他に言うことはあるかい?」
「ベニー・グッドマン物語と感触が似ているような気がしたが、結局音楽的叛逆という要素が似ているのだよ。表面的にはジャズという要素しか共通点は無いが、どちらも、期待されたものをやらないという音楽的な叛逆要素が含まれる」
「それに意味があるのかい?」
「あるとも。結局、【ロックは思想だ。それが理解できないのは馬鹿だ】と言葉で言ってしまって白けるのがロック。能書きを言葉で言う代わりに音で叛逆するのがジャズだ」
「ふーん」
「だが、映画本編中にジャズは死んだと言われているが、ジャズは既に死んでいる」
「ロックは生きているわけ?」
「たぶん、ロックは最初から死んでいる」
「生きているのは誰だよ」
「さてね。おいら達はみんな死者の国の住人だからな」