「なぜこの映画を見たんだい?」
「たぶん自分に取ってのア太郎に相当するものが、FROGMAN氏に取ってのバカボンなのだろうと推定したからだ。ついでにTOHOシネマズ府中ではプレミアスクリーンの通常料金上映だった。あそこは椅子が良いスクリーンなのだ。そして、TOHOシネマズ府中の無料鑑賞券を1枚持っていたのだ」
「それで質問だが、この映画はバカボンなのか、フランダースの犬なのか、それとも鷹の爪団的なFROGMAN作品なのかだ」
「全般的に言えばFROGMAN映画だ。ストーリーは鷹の爪団の亜種であり、バカボン的でもフランダースの犬的でもない」
「いいのか、それで。赤塚ファン的に」
「実は、バカボン一家、おまわりさん、レレレのおじさん、ウナギイヌに関しては洒落にならないぐらい赤塚的に描かれている。ストーリーはFROGMAN的だが、これらのキャラクターに関しては赤塚マニアしか描けないような濃厚な赤塚世界になっている」
「そんなに?」
「バカボンは心優しい少年で、パパは破天荒。ママは常識人ではじめちゃんは天才なのだ。レレレのおじさんは掃除しているし、おまわりさんはラーメンを食べているのだ」
「じゃあ、満足度が高いわけ?」
「もはや満足度とか言ってられる状況ではないぐらい、赤塚ラブの内容が展開されてしまう。大筋では赤塚的ではないのにね」
「どこがポイント?」
「赤塚作品に存在するホモ臭が、完全に取り込まれている。この空気感があるから。凄く赤塚っぽい空気が出来上がっている」
「どこにそんな空気があるんだよ」
「ひたすらパパに付いていく神田とか。ヒロイン的なポジションは、みんな男の子が独占しているし。特にネロ。ネロは本当にネロとパトラッシュだけで、実はアロアがジャケットにしか出てこない」
太陽は西から昇らない §
「太陽が西から昇ることにひたすら固執することは、【同族じゃ】としか言い様がない」
「なんだよ、同族って」
「昔作った【天災あさおん】という同人ソフトでも、ひたすら【太陽が西から昇る】ことにこだわったからだ」
問題 §
「じゃあさ。何か問題はあると思う?」
「最後にね。これでいいのだとパパが叫ぶ結末は、少し単調。本来はもうちょっと何かあったような気がする。でも、大人の事情で乙案に切り替わったような気がするな。事実かどうかは知らないが。何かもっと仕掛けがあったような気がする」
「本当に?」
「内情は知らないがね」
評価 §
「で、この映画は見て面白いと思うかい」
「お互いに、赤塚不二夫からぬぐい去れない刻印を押された仲間、ってことは良く分かった」
「じゃあいいの?」
「でも、その語りは凄くディープなレイヤーで行われていて、表面的にはあまりバカボンらしくないと見えてしまうかも知れない」
「もうちょっと詳しく」
「この映画を通して存在する軸は、バカボンのパパの本名を明らかにするという話なのだが、そもそも明らかにするような本名は存在しないはずだし、もし本名があるということになりと、バカボンのパパのパパらしさが消失してしまう。そういう意味でのハラハラは最初から最後まである。ただハラハラさせて納得の行く結末を付けているので、そこは分かった上でやってるなと言う気がする」
「でも、そこまで見るのはマニアだけだね?」
「そうだと思うよ。ただ単にバカやってるおっさんをみて面白いというだけの人は、バカボンらしくないと思うかもしれない……と思った」
「ではバカヴォンというタイトルはどう思う?」
「バカボンじゃないって表明だと思うが、実は作中でバカフォンはフェイクなのだ。そういう意味でバカボンではない話をやっていながら、実は濃厚にバカボンなのだ」
「難しいね」
「そうだ。虚と実がめまぐるしく入れ替わって、なかなか全体を見せてくれない」
「その過程でバカボンらしくない要素が前に出てくると、違うように見えるけれど、それもフェイクってことだね」
ただし §
「ただし、バカボンとかフランダースというキーワード抜きに構成だけ見れば、映画としては良く出来ている。映画を分かっている人が作っている安心感というものはある。バカボンとかフランダースを知らない人がただ見るのなら、実はストレートに面白いかもしれない」
「普通に映画だってことだね」
「うむ。普通に映画になっていない映画というのも見かけるからな。そういう部分にはホッとするものがある。ありがたやありがたや」