ある日庭いじりをしていると、ミミズが地面から顔を出して挨拶をした。
「やあ、調子はどうですか?」
だが、相手が誰が思い出せなかった。
口ぶりからすると顔見知りらしい。しかし、この庭で会った相手ではあり得ない。おそらく、地面の中を移動中に立ち寄っただけなのだろう。
だとすると困ったことだ。
ミミズと出合う機会などいくらでもあり、相手が誰か思い出すのは難しかった。
そこで一計を案じた。
相手の職業を質問するのだ。職業が分かれば出合った場所を絞り込める。思い出せる確率が上がるのだ。
見ず知らずのミミズは言った。
「水商売です」
「分かった。あなたは先月釣り堀で買い求めたイトミミズさん」
「違います」
(遠野秋彦・作 ©2015 TOHNO, Akihiko)